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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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娼婦と騎士



「あー・・・平和だにゃあ。退屈だにゃあ。」
 昼下がり、アミサガンの街を巡回していたメイがそう言ってあくびをした。
「退屈などと言うな。平和なのはいいことだ。この街の住人が平穏に暮らせる日々。それがリュリュ様の望みだからな。」
 そう言ってメイの巡回任務に付き合って平服で一緒に歩いていたアンジェリカがメイの横で肩をすくめて笑った。
 ちなみにメイは変身魔法を使って耳と尻尾を隠し、女性の警備兵の服を着て腰に短剣を帯びているという至って普通の兵士の格好だが、アンジェリカはなぜか男装をしている。この変装、アンジェリカ本人には平民に扮して身分を隠すという意図があってのことだが、彼女からは平服でも隠しきれない貴族らしいオーラが漂っており、残念ながらアンジェリカの意図に反して二人は物見遊山で城下町を歩く貴族の若君と無理やりその護衛に付けられた女兵士にしか見えなかった。
「いつも思うんだけど、アンジェはなんで男装するわけ?たまにはつばの大きな帽子をかぶって、ヒラヒラのスカートとヒールの高い靴でも履いてみたらどう?多分婚約者さんもそのほうが喜ぶと思うよ。」
「私のそんな姿に需要はない。それにヒールの高い靴なら履いているだろう。」
「いや、ブーツじゃなくて。・・・うーん、まあブーツでもいいんだけどもっとこう女性らしいデザインのやつをさ。それに無理やり胸を押さえつけると形が崩れるって言うし、男装するにしてももう少し考えたほうがいいんじゃない?あんまりバランスが崩れると婚約者さんもちょっと冷めちゃうかもよ。」
「え?そうなのか?」
「まあ、あたしも聞いた話だからなんとも言えないけどにゃ。」
 そう言ってメイはニャハハと笑いながら歩をすすめるが、アンジェリカはその場で立ち止まり、自分の胸を抑えて暗い顔で俯いた。
「メイ、私は一体どうしたらいいのだろうか。」
「あー・・・話を振っておいてなんだけど、残念ながらあたしそういうのよくわかんないから、アリスとかジゼルあたりに聞いてみるのがいいんじゃないかな?アンジェの胸ってあの二人クラスだよね?ああ、ソフィアのほうが相談しやすければそっちでもいいと思うけど。」
「む・・・それは・・・その。」
 アンジェリカは顔を真赤にして言葉をつまらせるばかりでハッキリとは答えないが、メイは何度かアンジェリカの裸を浴場で見ておりその時の記憶からすると、アンジェリカはエドやクロエ側の人間ではなく、キャシーやメイの様に何の特徴もない大きさでもなかった。完全にジゼルやアリス、ソフィアといった選ばれた側の人間の大きさだった。
「まあ、ちょーっと筋肉質だけど、ジゼルみたいにうまく筋肉を隠して、お化粧してウイッグでもかぶって可愛い格好すれば、アンジェだってちゃんと女の子できると思うんだけどにゃあ。」
「だ、だから。私の女らしい格好に需要などないだろうし、そもそもなんというか・・・恥ずかしい。」
「恥ずかしくなんかないって。それに需要なら確実に一人あるでしょ。彼なら絶対にに喜んでくれるし、アンジェだって彼が喜んでくれれば嬉しいでしょう?・・・喜んでもらえるだけいいのよ。あたしなんていくら頑張ってもあの唐変木は全く歯牙にもかけないんだから。こっちは早く毒牙にかけて欲しいってのに・・・まったく・・・あのバカ。」
 言っているうちにメイの機嫌は急降下していき、みるみるうちに表情が曇っていき舌打ちをしながら靴で地面をガシガシと蹴って穴をあけ始めた。なんとなくドス黒いオーラを漂わせるメイの様子を見て、アンジェリカは変な汗をかきながら話の方向転換を図る。
「あ、あー・・・メイ?どこかで一休みをして気分を変えよう。こういった話は私にとっても君にとってもあまり良い方には作用しそうにない。そういえばこの近くに落ち着いた雰囲気の、いい店があるんだ。紅茶もケーキも美味しいし、すべて個室で、部屋ごとにそれぞれ趣向をこらした箱庭を眺めながら飲食ができるんだ。行ってみないか?」
「・・・それ、あれよね。きっとデールとのデートで行ったのよね。」
「む・・なぜそれを。」
「いや、アンジェってそういうお店とかわざわざ探さなさそうだし、むしろ食事なんて屋敷でいいやって言っちゃいそうだし。」
「ぐ・・・。」
「ま、いいや。アンジェと彼の思い出に土足で上がり込むみたいでちょっと気が引けるけど、紅茶とケーキが美味しいなら文句ないしその店行こう。ついでにリュリュとジゼルとキャシー。それにまあ、ついでだしアリスにも何かおみやげをを買っていってあげよっと。」
「・・・そうだな。」
 出会った時こそ、アリスのことを気に入らないと言っていたメイだったが、最近は大分打ち解けてきている。それはアリスのほうも同じで、近頃はお互い文句を言いながらも仕事を頼んだり頼まれたりしている。
「何、変な笑い方して。」
「いや。人と人の関係は変えていけるのだなと思ってな。」
 クスクスと笑いながら言ったアンジェの言葉を聞いて、メイが眉を吊り上げる。
「べ、別にあたしとアリスの関係は改善なんてしてないから!」
「おや?私は別にメイとアリス殿の関係が。などとは一言も言っていないのだが?」
「ウニャー!もういい!ほら、早く店に案内してよ!」
「はいはい。じゃあ行こうか。」
 そう言ってアンジェリカが足を踏み出した時、赤いワンピースを着た女性とぶつかった。
 女性同士とはいえ、普段から訓練をしているアンジェリカと一般市民の女性とでは勝負にならず、女性は尻もちをついて倒れた。
「いたた・・・。」
「ああ、これはすまない。大丈夫ですか?」
「あら、ありがとうございます。騎士様。」
 アンジェリカが女性の手を引いて立ち上がらせると、女性は深々と頭を下げてお礼を言った。
「怪我はないか?」
「ええ、大丈夫ですわ。・・・お優しいんですね。」
「いや。これは騎士として当然の・・・。」
 言いかけて、アンジェリカは自分が平服であることを思い出した。
「なぜ私が騎士だと?」
「お腰にそんな立派な剣を下げていらっしゃれば、すぐにわかります。」
「ああ、これは失念していたなあ。・・・そうだ、少ないけれどこれを。」
 アンジェリカはそう言って懐から革袋を取り出すとその中から2枚の金貨を取り出して女性に握らせた。
「迷惑料と汚してしまった服代だ。取っておいてくれ。」
「まあ、こんなに?」
「足りないだろうか。」
「いいえ、そんなことはありませんが・・・本当にこんなにいただいても?」
「ああ。私の気持ちだ。取っておいてくれ。」
「気持ち。・・・そうですか。ではこれを。」
 そう言って女性は少し暗い表情でポシェットの中から一枚のカードを取り出してアンジェリカに差し出した。
「薔薇の館、フェイオ・・・?」
「もし、私にお手伝いできることがあれば薔薇の館でそのカードをご提示いただければ、私はどこへなりとも参りますので。」
「そうか。すまないな、気を使わせてしまって。」
「いえ。それでは。」
 もう一度深々と頭を下げるとフェイオは去っていった。
「お仲間・・・か。珍しい。」
「ん?どうしたメイ。なんだか不機嫌そうだが。」
「なんでもなーい。それよりどうすんの?あんたそういう趣味あったの?」