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愛道局

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ボランティア課


 愛道課の若い男性職員は、山本が妻を亡くしたことを知り、ちょっと顔を曇らせたが
「事情はよくわかりました。お支払いが困難な方には、救済処置が用意されております。体力的にも無理な方は、申請によって免除されます。山本様は」と言って、答えを促すように山本を見た。
「身体は大丈夫です」
 それを聞きに来たんだと思いながら、職員をにらむように山本はそう言った。職員は事務的に話を続けた。
「ボランティアをすることによって、お支払いに当てることができます。ボランティアに金額が定められております。それを貯金することになります」
 そこで間をおいて、さも偉そうに胸を張って「貯金通帳もあります」と言った。山本がそれに対し無表情だったので、職員は少しだけ投げやりな調子で書類を見ながら続けた。
「あと、一つ説明させてください。これは救済措置というか、まあ罰則に近いのですが」と言いながら、山本を見る。
 そんな話は聞いたことが無いなあと思いながら山本は、先を促すように軽く頷いた。
「滞納が六ヶ月以上になると、指定された日時に集愛場へ出頭するようにと通知が行くことになっています。そこで一日か働いてもらうことになっております」
 山本は知らないことが随分あるなあと思った。しかし自分の頭には全部は入らないと判断し、最後の説明は無視することにした。


「以上です。手続きはボランティア課で行ってください」と言って、何ヶ所か記入した用紙を渡してから、「ボランティア課は、丁度真後ろになっております」と言った。
 山本は席を立って後ろを見た。学生風の男とフリーターと思われる女性が、それぞれ職員から説明を受けていた。こんな歳で支払いが出来ないのは俺だけかよと山本は情けない気持ちになる。もう一人立って待っている無職かなと思える三十代の男がいる。やれやれ、待たされるのかと思いながら並ぼうとした時に、二人が手続きを終えて去っていった。
 今度は若くてきれいな女性職員だった。山本は頬の筋肉を弛め、少し上の空になりながら手続きをした。

 一通り説明と、記入をすませてから山本は早速ボランティアの実施を希望した。
「最初は、簡単なことからしましょうね」と、年下の女性に子ども扱いのような言葉をかけられるのに抵抗を感じたが、全然悪気があるのではないのだろうということと、顔が自分好みできれいなので許してやると思いながら頷いた。
 それは病院への見舞客になることだった。身寄りが無いか、事情があって誰も見舞いにこない患者、それも認知症状の出ている患者に限られた。患者が思い込んだ患者になりすますのである。ちょっとした俳優気分が味わえますと、若い女性職員は、笑いもせず言った。山本は苦笑しながらその職員を見た。
「何か?」と営業スマイルの顔で見返されて、山本はドギマギしてしまった。若い女性に少しだけ関心をもってしまったことで、妻の顔が浮かんだ。妻の顔はセーフと言っている。
 それから約30分の教習を受けて、都合の良い日にボランティアをすることになった。




作品名:愛道局 作家名:伊達梁川