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数式使いの解答~第二章 雪と槍兵~

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《第四幕》今の自分・昔の自分


「ん……?」
 ローレンツは目を開くと、ベッドの上にいることに気がついた。
 見慣れないベッドだ。宿をとった覚えはないし、村長の家でもない。
(……ではここは?)
 体を起こして周りを確認しようとする。だが――。
 ビシッ! とまるで体中の骨が悲鳴を上げたかのような激痛が、ローレンツの体を襲った。
「〜〜〜〜!!」
 あまりの痛みに声が出ない。だが、おかげで意識ははっきりした。
 痛みに耐えつつ、顔を横に向ける。
 そこには、ミリアがすうすうと寝息を立てていた。
 椅子に腰掛け、自分の腕を枕にして寝ている。
「おや、起きたか。――その様子だと、わかってるみたいだな。ミリア、ずいぶんと心配していたぞ? 今日の明け方くらいまでは起きていたんじゃないか?」
「わかってる。それ以上言わなくとも大丈夫だ」
「どうだか。少なくともオレには、女心を理解しているようには見えないがな」
「女心はわからなくても、やってくれたこととその難しさならわかるつもりだ」
 ローレンツがそう言ったところで、
「うぅん……」
 むくりと、ミリアが体を起こした。
 目を開き、ローレンツの姿を視界にいれる。
 ………………。
 抱きッ!
「うおぉ! 痛い! 痛いから! ミリア、ちょっとまっ――いたたたた!」
 ローレンツの言葉も無視し、さらに力をこめて抱きしめる。
 散々苦しめた後、ミリアはこすりつけていた顔を上げ、言った。
「バカ」
「……」
「バカローレンツ」
「……すまん」
「もう!」
 ミリアはもう一度ローレンツに抱きつく。
 ローレンツは痛みを覚悟したが、……来ない。
 ミリアを見てみれば、顔を押し付け、痛くないように気をつけながら抱きついている。
 そして、
「……バカ。今度やったら許さないんだから」
「……すまん」
 コンコン、とミリアの背後で物音がした。
 振り向くと、ヘルメス。
 ヘルメスはニマニマと妙な笑顔を作りながら言った。
「お二人さん、お熱いのは構わないんだが、オレのことを忘れてないだろうね?」
 ボッ! っという音が聞こえそうなほどに、ミリアの顔は一瞬で真っ赤になり、ローレンツから離れた。
 その後、ミリアがヘルメスにいじられ抜かれたのは言うまでもない。

 翌日、ローレンツはベッドを抜け出すと、リハビリ代わりの鍛錬にいそしんでいた。
「ローレンツ君、なにやってるの!? 寝てないと駄目じゃない!」
 ミリアだ。しかし、ローレンツは
「大丈夫だ。もう傷は塞がってる。昨日体が動かなかったのは、こいつのせいだ」
 そう言って、腰に下げた短刀を抜いてみせた。
 黒い刃の装飾剣だ。
 いつもローレンツの使っている剣とは、長さも重さも雰囲気すらも違っている。
「……もしかして、"古代数式集(アーティファクト)"?」
「正解だ。コイツは装飾剣の形をとった"古代数式集(アーティファクト)"。銘は《Answerer(アンサラー)》。作者不明で、書かれた数式も解読できてない」
「そんなもの、使って大丈夫なの?」
 ミリアの疑問に、
「まぁ、大丈夫だろう。俺の師匠も、大丈夫だって言ってたからな。……適当に言ってるときもあるが」
 最後にボソッと付け加えたが、幸いにもミリアには聞こえなかったようだ。
 そこに、ヘルメスが顔を出した。
「おや、もう動いても大丈夫なのか?」
 ああ、とローレンツは短く答えた。
 そして、どうした? と彼は続けた。
 ヘルメスは逡巡をみせるが、意を決し、
「ロピタルとの戦い、手伝ってもいいぞ」
「本当!?」
 ミリアはよろこぶが、
「だが、一つだけ条件がある。ローレンツ、恨みであれと戦わないと。そう誓え」
 一瞬の間――爆発。
「――ふざけるな! 恨みであれと戦うなだと? 奴が今までやってきたことを知っていて、それを言うのか!?」
「ああ、言うとも。あれにはあれで事情があるんだ。それに……あれは"災害"。災害を止めることはできんさ」
 ヘルメスが言い切らないうちに、ローレンツは背を向ける。
「納得できないか?」
「……できるわけがない。恨み以外であれと対峙する気はない」
 言うと、ローレンツは部屋を後にした。
 ドアの閉まる無機質な音が、部屋にひどく残響した。
 ヘルメスは、はぁ、と息を吐き出し、
「止めなくてよかったのか?」
「……ホントは止めたかったけど」
「けど?」
「事情ってなに? なんであなたはそんなことを知っているの?」
 ミリアの言葉に、彼女は再び嘆息。
「――ちょっと、あいつを呼んできてくれるか? 出て行ってすぐなのに悪いな」
「いいわ。その分話してくれるんでしょう?」
「まぁな。しかし、これは。高くついてしまったかな?」
「もちろん。はじめから話していればよかったんだもの。高くつくわよ」
 そう言ってミリアは、ローレンツを呼びに部屋を出た。
 残された女戦士は三度目の溜息を吐き出し、
「ロピタル……か……」
 彼女は思う。過去の自分を。
 彼と同じように、ロピタルを憎み、討とうとしたあのときを。
 しかしそれは、怨嗟のみで討たんするエゴイズムだと気づいた。
(……もう二度と、アレと関わることはない。そう思ったんだがな……)
 神というものは、往々にしてなぜこうも意地が悪いのか。
「それとも、――」
 彼女の呟きは、誰に聞かれることもなく、壁へと吸い込まれていった。

 ローレンツは部屋を出ると、その足で外へと出ていた。
 豪雪地帯というだけはあり、今日も雪が降っていた。
 ちらちら降る程度だ。
 そこに、
「ローレンツ君!」
 振り向くと、ミリアの姿。
「どうした?」
 ローレンツは苛立った様子を見せず、彼女に接する。
 それを不思議に思ったか、ミリアが尋ねた。
「ローレンツ君、怒ってないの?」
「あー、まぁ、なんだ。アイツの言うこともわかるからな。さっきは頭に血が上っていたが、今はそうでもない」
「本当に?」
 小柄なミリアが、下からのぞき込むように確認する。
 ローレンツはうっすらと頬を染め、そっぽを向く。
「……ホントはまだ、少し、な」
「そう。――ヘルメスが、」
 そのとき、轟音――!
「な!?」「きゃ!?」
 雪の中を抜け、光りが一閃。
 同時、爆破。
 村のすぐ横、山の一部が吹き飛んだ。
 あまりにも唐突。あまりにも不条理。あまりにも――非現実的な光景だった。
 こんなことができる化け物――それは。
「ロピタル……!」
 ローレンツはミリアのことすら忘れ、光源へと向かって駆けだした。
「待って、ローレンツ君!」
 そう呼ぶ声すらも届かずに――。