小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Delete

INDEX|16ページ/41ページ|

次のページ前のページ
 


こんなにじっと自分の部屋に閉じこもっていることもめったにないことだ。信親は普段手を付けていないクローゼットの奥から段ボール箱を引っ張り出して、中身を物色していた。いらないものがあれば捨ててしまえ、というくらいの何気ない行動だったが、久しぶりに開けた段ボール箱の中身は意外にも魅力的ですっかり夢中になっている。
中には小・中学校の卒業アルバムも入っていた。中学校を卒業したのは、たったの二年前のことなのにもうずいぶん昔のことのように思える。
小学校も中学校も信親と秋桜は同じクラスになったことはなかった。だから、二人が一緒に写っている写真はない。
そして、手元にあるのは信親の分だけ。秋桜の分は一体誰がどこに保管しているのか、信親には見当もつかなかった。
秋桜の体は、およそ半年に一回、成長していたらしい。今もそうだが、いつも信親と秋桜はぴったり同じ身長だった。一度だけ、誰が読み間違えたのか知らないが秋桜の身長が信親より二センチ高くなったことがあった。
悔しくなった信親は、お腹を壊すまで牛乳を飲んだ記憶がある。

「あきは、牛乳どのくらい飲んでるの。」

信親の質問に、秋桜は困ったように笑っていたのを覚えている。
信親が秋桜を機械だと認識する前の話。
信親はため息をついた。自分自身がとても矮小な存在に思えて仕方がない。
だだだだだだだだだ。
静かだった室内に、廊下を誰かが走ってくる音が響く。徐々に近づいてくるのを感じた。
信親は首を傾げる。
だれだろう、こんなに急いで。
ばたーん
信親は思わず背筋を伸ばして、開かれたドアを見た。
「え…あき?なに、どうしたの。」
秋桜は走ってきたせいで髪の毛がぼさぼさになっていたが、息を切らすわけでも汗をかくわけでもなくつかつかと部屋に入ってきた。声をかけた信親をちらりと見るが、答えることはしない。
信親は何も言わない秋桜を目で追う。秋桜は自分で耳に青いコードを差し込んだ。
「ぷはー、生き返る。」
仕事終わりのサラリーマンがビールを飲むように給電を開始した秋桜に、信親は呆れた。
「午前中無駄に通信するから。」
「のぶのノートの性能が悪いんだよ。」
「あきの性能がいいんだよ。」
秋桜は信親のベッドのわきから自分のスマートフォンを取り上げた。
「充電しておいたよ。」
「おお。ありがと。ねぇ、のぶはなにしてんの。」
信親は、秋桜に向かってアルバムを広げて見せた。
「懐かしいでしょ。」
「懐かしい……ああ、そうだな。」
秋桜は首を傾げて、曖昧に笑った。
信親も、曖昧に笑った。
懐かしい、はわからないか。
「今日は何ともなかった?不審者が来たとかじいちゃんが説教しに来たとか。」
「なんにもないよ!部屋に閉じこめられてるうえに心配されたんじゃ、もう。」
そうか、となんでもなさそうに相槌を打つ。
「みんな、心配なんだよ。お前が誘拐でもされたら大変だからな。」
心配、ね。
「そうだけどさ。」
誘拐か。
信親は思う。
この生活を変えるためにはそのくらいの刺激が必要かもしれない。ただ、そんなことになったら、もう一生外に出られないかもしれないけれど。
もっと自由になりたい。せめて、秋桜を自分から解放してやりたい。
もう、信親の人生なんて最後まで道筋が決まっている。何の面白味もないこの一本道をただただ秋桜に付き添わせるなんて。秋桜にはもっと大きな可能性があるのに。
信親は眉を寄せて無理やり口元だけで笑って、秋桜を見た。秋桜はただ優しく微笑んでいる。
「ところで、帰ってくるの早くない?生徒会はどうなったの?」
「帰されたよ。昨日の詫びだって。悪いな、余計なことしないで、俺も一緒にここにいればよかった。」
「え。」
「いや、なんか、ただリスク増やしただけでなんにもできなかったからさ。」
信親は首を振る。
「そんなことないよ。」
ありがとう、と首を傾けて微笑む。
ほら、と秋桜は直哉に言ってやりたくなる。完璧な再現じゃないか、と。

作品名:Delete 作家名:姫咲希乃