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安らぎの地

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ここはどこ?思いだせるのは自分の名前くらい。たしか私の名前は畑崎理郎だ。しかもなんだここは?見た感じ草原にしか見えないが?
私の白いタキシードの裾が風で揺れる。シルクハットが飛びそうになる。杖は腕に掛け、ネクタイは私の顔にバタバタ当たる。ズボンは私を後ろへ向かせようとする向かい風だ。

「こんにちは。あなたも死んでここに来たんですか?」

私は咄嗟に声のする方向を向いた。
私に話しかけてきたのは、見た目20代後半の綺麗な女性だ。白いワンピース1枚、着ている。

「そうか、私は死んだのか、ってことはあなたも死んでるということですね?」
「はい。我々人間は死んだら天国でも地獄でもなく、ここに来ます」
「じゃああなたは閻魔大王か神様?」
「いいえ、先ほど言ったはずです。ここは天国でも地獄でもないと。私はただ、息子を待ってるだけです。ほら、そこのおじいさんがそうです」

彼女は手を前に出すと、水がどことなく宙に集まり、ひとつの球状になった。そしてそこに映像が映る。

「息子?このおじいさんが?失礼ですがあなたは少なくとも20幾つ、このおじいさんはあなたの息子さんの生まれ変わりなのでは?」
「いえ?私はこれでも数えて100歳以上なのですよ?だけどここでは年をとらないらしいですよ?だから若く見えるのです」
「となると・・・戦争体験者ですね?それは気の毒に。ですがなぜ息子さんだけ生きているのですか?一緒に暮らしていなかったのですか?」

彼女は悲しそうな顔をするが、何か決心を決めたような顔で語りだす。

「かつて私は一つの過ちを犯しました。それは息子より先に死んでしまったこと。多分あなたは私より年下でなんで広島の人たちが死んだか、わかるでしょうけど、私は広島生まれの広島育ちです。でも私は息子を一人、田舎の祖父の所へ連れて行き、そこへ住ませたのです」
「それは・・・そのあとあなたは急にピカッと光り、ここへ来たということですね?」
「はい、ですが私は息子を一人、現世へ残して死んでしまったのでずっとここに居るわけです」

私たちが長話していると、急に水の中のおじいさんがもがき、苦しみ始めた。そのおじいさんは5分くらいもがいた後、彼は動かなくなった。
そして私は彼女が目をそらしていたことに気づく。

「やはり・・・人の死を・・・息子が死ぬのはつらいですか?」
「いえ、私は死んでいますから・・・ただあんなつらい息子の顔を見たくはないのです。あの日、私が偶然ここから見ていたあのつらい顔・・。二度と見たくない顔です」

作品名:安らぎの地 作家名:DG4