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 ――すいません、ガムを買いたいんですが。
 ――ああ、ちょっと待ってくださいね。
 ――仕事大変そうですね。
 ――何、普通ですよ。
 ――そうそう、そういえばさっき、面白い体験をしまして。
 ――おや、なんですか?
 ――あれ、妖怪って言うんですかねえ。それに会いまして。
 ――妖怪。それはどんな妖怪ですか?
 ――俗に言うのっぺらぼうってやつですよ。目も鼻も口もない、のっぺりとした卵みたいな……うーん、なんて言えば良いのかな……。
 ――お客さん、それは、こんな顔じゃありませんでしたか?

 で、振り向いたところをね、ぐさりと、ナイフで刺してやりました。顔の、目のあたりを……まあないんですが、一突き。
 おや、どうしました? なんで離れるんですか?
 だって相手は物の怪ですよ。刺そうが殺そうが特に罰せられることはないでしょう? なんと言っても、人の世の理から離れたものですからね。
 せっかくだから、ナイフで顔を描いてやりました。目と、鼻と、口。
 いやー、あれは傑作でしたね。正に血の涙を流してました。
 のっぺらぼうもね、やっぱり痛いのか随分もだえてましたよ。
 でも次第に弱ってきて、ついに動かなくなりまして。なんだかどろどろした良く分からないものになってしまいましたよ。
 結局、あれは何だったんでしょうねえ?
 ……あなた、震えてますか?
 私が怖いですか? でもむしろ、私は妖怪を退治したということで、褒められてもいいくらいだと思うんですけれどね。
 ……あ、なるほど。そうですかそうですか。
 そうですね、さっき交番の前を通りましたからね。
 そこに貼ってあるポスターを見てしまったんですね。
 殺人犯、とでも書いてありましたか?
 今度から妖怪ハンターとでも書いて欲しいところですね。
 私は人を殺してるつもりはないんですよ。あんな怯えた目で必死に命乞いするようなのは、人じゃなくて虫けらです。世の中にはもっと気概をもった人ってのはいないんでしょうか。
 さっきもね、その暗い道の向こうにある家で、虫を二匹ほどつぶしまして。
 まあそうは言っても、世間的には人ですからね、いつも虫取りを楽しめるわけではないのです。だから、あののっぺらぼうは好都合でした。二匹だけじゃ私の気分も晴れていなかったですし。
 ま、あんまり殺しがいはなかったですけど。やっぱり顔がないから、恐怖に怯えてるってのがいまいち分からないんですよ。そうそう、今のあなたみたいに。
 ……え? 悪い冗談はよしてくれって?
 冗談だと思いますか? そういえばあなた、さっきから私の顔を見ようとしませんけど、もしかして確認するのが怖いんですか?
 しょうがないですね、じゃあ、ちょっと見てくださいよ。ポスターの顔を思い出してください。

 ほら、こんな顔じゃなかったですか?

作品名: 作家名:紺野熊祐