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海竜王の宮 深雪  虐殺12

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 抱き締めてあやしていたら、子猫のほうが鳴きながら近寄ってきた。そして、小竜の衣装の裾に辿り着き、そこを昇る。みょーみょーと鳴いているので、小竜も気付いて、その子猫に手を出す。抱き上げてやると、みょーみょーと鳴いて、小竜の手を舐めている。
「泣くな、と、慰めているんだよ、深雪。」
「おまえが泣いているから、子猫も心配するのです。」
 子猫は、ペロペロと小竜の手を舐める。その姿が余計に涙を誘う。桜も最初から深雪に懐いて、いつも一緒に居てくれたのだ。
「深雪、その子猫に名前をつけなさい。もう一度、おまえに友達を用意してやろう。」
 そう言いながら、杜紗が近づいたら、びくっと小竜の身体が跳ねて、子猫を手にしたまま、祖父母の背後に隠れた。
「あれ? 忘れられているのか。私だ、深雪。おまえの叔父の杜紗だ。忘れたのか? 」
「忘れているだろう。あれから五十年は過ぎているからな。・・・深雪、その子猫を友達にするには、名前をつけて、この叔父に名付けをしてもらわなければならない。名前を考えなさい。」
 逃げてしまった小竜に、父親が声をかける。桜の名付けの時に同席はしていたが、あの時、深雪は具合が悪くて寝付いていた。だから、ほとんど覚えていないだろう。
「でも、おとうさんっっ。・・・俺・・・また・・・失くす・・・また、死んじゃうっっ。」
 桜が大切だった。また、同じように失くすのはイヤだ。そんなふうに、子猫を育てたくないから、深雪は、ぶんぶんと首を横に振る。
「今度は死なない。・・・おまえが成長すれば、子猫を守ってやれるだろう。そうではないか? 桜のように守られたくなければ、強くおなり、深雪。子猫が大きくなる前に、おまえが強くなれば死ぬことはない。・・・・その子猫が成長するまで時間はある。わかるか? 深雪、その子猫を守れる力を、それまでにつければいい。」
 深雪が桜を貰ったのは、本当に小さな頃だ。今度は、それよりも成長しているし、二度と、こんなことに巻き込むつもりもない。今度は大丈夫、と、父親が説く。
「背の君、今度は、私くしが必ず、背の君と子猫をお守りいたします。ですから、どうぞ、その子猫に名前をつけてくださいませ。・・・その子猫も、あなた様の良き友達となってくれますから。」
 華梨が、祖父母の背後に隠れた小竜の前で叩頭して宣言した。今度は、自分が守る。約束は守ってくれた。だから、次は、自分が約束をする。
「・・・華梨・・・でも・・・」
「大丈夫です。神仙界最強と謳われる私くしが、約束いたします。二度と、背の君と子猫を引き離すようなことはいたしません。どうか、今度は成人するまで、子猫と暮らしてください。桜と暮らせなかった分も、その子猫と。」 
 みゅう、と、子猫は深雪の手の中で鳴いて、深雪を見上げている。一緒にいよう、と、子猫も心で思っている。桜と同じだ。桜も、ずっと一緒にいましょう、と、思っていてくれた。
「おまえは・・・ずっと居てくれる? 」
「みゅう、みゅう、みゅう。」
「俺のこと、守らなくていいから。ただ、側に居てくれるだけでいいから。」
「みょぉぉぉぉぉーーーにょっっ、みょおーみゃう。」
 子猫は、無茶言うな、と、文句を言う。俺が守ってやる、と、宣言までするので、深雪は微笑んだ。桜とは違うのだ。桜は、はいはい、守ってくださいね、と、いつも言っていた。それでも最後には、いつも守ってくれていたのだ。
「・・・でも・・・おまえが死ぬのはイヤ・・・」
「みょ、みょおーん。みょっっ。」
 そんなことあるか、さっさと名付けやがれ、と、威勢良く啖呵を切っている。どうやら、この子猫はやんちゃらしい。両手で抱き上げて顔を近づけると、みょおう、と、鳴いた。桜と瓜二つの真っ白な子猫だ。鼻だけがピンクで、可愛い。でも、桜よりも鼻のピンクは濃い。桜ほどの淡さではなく、桃の花の色に近かった。
「・・・・桃でいい? 」
「にょっ。」
 いいぞ、と、言うので、深雪も頷いた。それから、華梨に向かって、「この子は桃って言うんだ。」 と、ようやく名付けた。
「まあ、可愛らしい名前ですね。では、名付けていただきましょう。これで、この子猫は背の君のお友達です。」
 祖父母が立ち上がり両側に退けると、杜紗がやってくる。かなりびくついているが、深雪は華梨に凭れて待っていた。
「桃だな? 深雪。」
「うん。」
「これは、気が強くて力もある。良い遊び相手になるだろう。」
「・・うん・・・」
 杜紗のほうも、少しでも力の強い守りの猫を、と、選んでいた。前回の桜より少し大きいが、力も桜よりあるから、少しは守りも強くなるはずだ。子猫を片手にして、杜紗が自身の白虎の力を高めて行く。緑色のオーラが、杜紗の背後に輝き始める。それから、子猫の額に片手で印を結ぶ。
「我が名は白虎の長、杜紗。我が名において命ず。おまえの名は、桃(たぉ)。これより、深雪を生涯の主として守り通せ。」
 緑色の印が子猫の額で輝いて、その身に染み込んだ。それから、深雪の額にも印を切る。これで、守りの猫と繋がる。もう少し成長すれば深雪の身体に溶け込んで、深雪を守ることも出来る。それが終わると、桃を深雪の手に返す。
「私は、おまえの叔父だ。杜紗というのだが、覚えてくれるかな? 深雪。」
「・・・うん・・・う? 白虎のじいちゃんと同じ? 」
「ああ、あれが私の父親、そして、おまえの父親が私の兄だ。」
「白虎のおじさん? 」
「まあ、そうなるな。」
 深雪は華梨に背後から抱き締められて逃げられなくされている。だから、面と向かっているが、あまり知らないものは得意ではない。もじもじと動くので、杜紗も苦笑した。
「そのうち、覚えてくれればいい。どうせ、これから長く付き合うことになるのだ。」
「叔父上、ご足労頂いてありがとうございました。そろそろ退いてください。背の君が怖がります。」
 深雪の背後から、華梨が、怖がらせるな、と、睨んでいるので、杜紗も、面前から退く。それから、両側に立っている東王父と西王母に軽く会釈する。
「ご苦労様でした、杜紗殿。さて、深雪、子猫と庭でも散策しようか? じぃじと追いかけっこなどいかがかな? 」
「・・・桃に、ごはんあげてからでいい? じぃじ。」
「そうですね、子猫にごはんをあげるのと、おまえにもおやつを食べさせましょうか、深雪。ばぁばが謡池から、おいしいお菓子を持ってきましたよ? 」
「桃は肉食だよ? ばぁば。」
「ええ、もちろん、桃には、別のものを用意させましょう。・・・華梨、用意してくださいますか? 」
「はい、金母様。しばらく、お待ちください、背の君。桃のごはんを用意させますから。」
 どうやら、用事は終わった。これで、小竜も元気になるだろう。
「杜紗様、お疲れ様でした。どうぞ、一休みしてください。」
 伯卿が、そう勧める。仲卿が、控えの間に声をかけて、お茶の用意をさせる間に、水晶宮の主人夫婦も、微笑みながら小竜を眺めている。
「おい、とんでもないな? 簾。」
「あははは・・・うちの末弟は、とんでもないんだ、杜紗。愛らしいので、皆様に溺愛されていてな。くくくく・・・じぃじとばぁばが孫バカになってしまった。」
「おまえもだろ? 」