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海竜王の宮 深雪  虐殺10

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正月行事が落着くと、またぞろ、深雪の関係者が西海の宮を訪問してくるようになった。薬師様と乳母様は、やってきて、やはり、そのまんま世話をしているし、足りない薬材などは、青麒麟や謡池のものが運んで来る。特殊な薬材は、前回で十分に確保してあるので、それで事足りている。
「・・・じいじ・・仕事いいの? 」
「おほほほほ・・・いいんだ。私は、学者だから、これといって急ぐ仕事はないのだよ、小竜。」
 いや、あなたは崑崙を統括する責任者で、本来なら崑崙に居座っているべき人物ですが、と、内心で、そこにいるものはツッコミだ。ごらん、これがクスリになるんだよ? と、珍しい薬材を見せて、薬師様は小竜に説明していたりする。
 華梨が懇願したので、眠って待つことはやめてくれた。ただし、体力は回復していないから、少しすると寝てしまうので、適当に順番に小竜をあやしている。
「・・・ばあばも? 」
「ああ、ばあばも、おまえの世話が楽しいそうだ。なに、ばあばも急ぎの仕事はないそうだから、気にしなくて良い。」
「ほほほほ・・・・小竜、ばあばのことも心配してくれるのですか? 本当におまえは良い子ですね。さあ、ばあばが抱っこしてあげましょう。」
 薬師様が膝に座らせていたが、強引に乳母様が奪い取る。これこれ、と、薬師様は文句は言っているが、こちらも立ち上がって、小竜の頭を撫でている。あんたら、どんだけ孫バカだ? と、周囲も呆れる状態だ。
「本当に大丈夫なんですか? 九弦様。」
 それを遠目にして、静晰はかつての上司に尋ねる。どちらも神仙界のトップに近い方たちだ。それほど暇ではない。
「だが、おまえ、あれを引き剥がせるか? 静晰。私には無理だ。緊急の要件は、上元が書状で報せてくるから、対応はできている。・・・薬師様のほうは知らんがな。」
「あちらは、薬師様は研究で引き篭もっておられることが多いから、不在には慣れておりますよ。・・・・私が降りた意味がありませんね。」
 会話に参加するのは、是稀だ。夜だけは、母親の添い寝が欲しいと小竜が言うのだが、それ以外は、ほとんど触らせてももらえない。せっかく降りたというのに、手持ち無沙汰になっている。
「そうでもないさ、是稀。・・・小竜は、母の胸が一番安心するらしいぞ。」
 どうしても、夜は母と眠りたいと言うので、薬師様も乳母様も添い寝はできない。それに、そろそろ一度、西王母には謡池に戻っていただきたい、と、九弦も考えている。そこに主人の姿があるとないとでは、やはり謡池の空気も違うからだ。
 とは言っても、大人しく言上に耳を貸してくれることはない。それに、小竜の左目の再生も関係している。特殊な薬材と特別の調合、それと薬師様と乳母様の気で再生させているからだ。ひとり欠けると再生の速度も遅くなる。兎にも角にも、左目を再生させなくては、水晶宮に戻せない。あちらも、小竜が西海の宮に隠れていることで、かなり騒がしくなっているはずだ。
 竜族は戦闘部族ではないが、何かあれば戦うことに躊躇はない。そういう勇ましいものが多い一族だ。だから、怖くて逃げたというのは、かなりの失態になっているはずだ。いくら、黄龍が選んだ婿とはいえ、これでは評価が下がるばかりで、蔑ろにされかねない。とはいえ、傷がある状態で戻せば、また、これも噂になる。是稀も、それがあるから、乳母様と薬師様に引き取ってくれるように言えないのだ。
「是稀、あちらは大丈夫か? 」
「まあ、いろいろとお歴々たちは申しておりますが、さすがに、直接には詰られておりません。・・・・どちらにせよ、深雪も、しばらくは体調が整わないでしょうから、表に出ることもありません。」
「・・・厄介なことだ。」
「いいえ、それは構わないのです。私くしたちは、深雪の行動を理解しております。どう言われても、恥とは思いませんのでね。」
 ただ、そのしでかした行為が大きすぎて公表できない、というだけだ。これについては、華梨ですら、沈黙している。なにせ、白竜王を助けただけではないのだ。結果として青竜王妃と、その配下も助けている。白竜王が奪還できなければ、青竜王妃は自身の力で、そこにいたシユウの一族を滅する予定だったからだ。
「ですが、戻られたら心を読んで知られてしまうのではありませんか? 母上。」
「まだ、大丈夫ですよ、静晰。いくら、深雪とはいっても、力を使い果たしておりますのでね。しばらくは、そう深くは読めないはずです。・・・それに、あの子の記憶がありませんから、私たちの記憶を読んでも理解できないでしょう。」
 自分は力尽きて、三兄に救助されたと思っている。だから、叔卿たちが見ていた記憶が読めたとしても、自分のことだとは理解しないだろう、と、薬師様は診断してくれた。それなら、それでよいのだ。もっと成長してから真実は知ればいいと思うし、もし、知りたいと願わないなら、このままでもいい、と、是稀たちも考えている。


 ようやく、シユウの一族が派手な行列を設えて、天宮へ参内した。それを確認すると、簾も蓮貴妃も、ほっと胸を撫で下ろす。これで、騒ぎは収まるはずだ。元来、シユウは、力のあるものが長になる。だから、代替わりの時は兄弟間であっても血で血を洗う抗争になることも少なくないし、先代の遺恨などあっても、それも無視されて新しい体制に変わるから、今後、先代の長についての言及はないはずだ。
「では、厳戒態勢は解除いたしましょう。長、それでよろしいですか? 」
「そうだな。この騒ぎで、各竜王の宮も雑事が溜まったことだろう。それらを処理するために、全軍引き上げてくれ。・・・それから、通常より多いぐらいの軍備をシユウ側の領域に配置させるように。」
 接見の間で、朝議が行なわれて、ようやく、戒厳令も解除された。とはいうものの、完全には無理だから、多少の部隊は配備させたままにする。白竜王が、その任は、私くしが、と、名乗りをあげた。今回の失態を挽回するためには、働くしかない。
「では、叔卿、警備は任せる。」
「承ります、長。」
 それと、自分の部隊を西海の宮に返すと、深雪のことを探られる可能性があるから、それもあって出張らせたままにした。さすがに、離宮に踏み込まれて、現状を知られたら、非常にまずい。知ったものは、その場で滅する必要が出てくる。なんせ、離宮には、とんでもない面々が居座っているからだ。崑崙と謡池の連合軍が居座って、深雪の看病をしているなんて、とんでもなさすぎる。


「長、ひとつ、お尋ねしたきことが。」
 朝議が終わると、東海の宮の下級の将軍の一団が、長の許へ近寄ってきた。次期様は、いつお戻りなのですか? というやんわりとした嫌味だ。此処のところ、毎日、どこかの宮の将軍たちが質問する。騒ぎが怖くて避難しているなど、次期様として相応しい態度ではない、という糾弾を声にせずされていた。
「さあ、当人が西海の宮が気に入ったらしいので、しばらくは、あちらにおるのだろう。別に、ここに居なくて問題はないはずだが? 」
「ですが、外聞というものがございます。いくら、次期様がお小さいとはいえ、非常時の場合、こちらで、その様子は見学なさるべきではございませんか? 」