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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 外伝2 前日譚:アリス

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※本編より半年ほど前の話です。




アミサガン

 グランボルカ帝国の北西に位置し、旧リシエールに隣接した海辺の街である。
 元国境の街という性質から強固な城壁を持ち、また貿易の街でもあり異国の文化を取り入れやすい環境から、学園都市としての顔も持つ帝国でも屈指の先進都市である。
 そのアミサガンの統治を任されているのが、若干というにも程遠い年齢である10歳のリュリュ皇女である。
 10歳という年齢とは裏腹にリュリュ皇女はそこら辺の半端な領主よりも優れた統治を行っている。
 皇帝がリシエールへの遷都を行って以来、帝国内は各領領主ごとの独裁の傾向が強まり、重い課税に活気がなく、人々の顔には不満と不安の色が浮かぶ。
そんな街が多い中、このアミサガンの街には活気が溢れ、行き交う人々の顔には自然と笑顔が浮かんでいる。
 アレクシス皇子の命令でリュリュ皇女の護衛と暗殺の任務を受けてやって来たアリスは、そんなアミサガンの街の活気に圧倒された。
 現在アレクシスが統治している前首都、グランパレスも決して活気がない訳ではないが、この街の活気は勢いがある。
グランパレスの安定色の強い活気に比べて、アミサガンの活気は成長という言葉が一番しっくりとくる。
 アリスは二年前に少しだけこの街のオウル女学院という学校に妹のクロエと共に通っていた。そのころも活気のある街ではあったが、そのころとはまた違う。いや、そのころよりも強くなっている活気にアリスは思わずポツリと言葉を漏らした。
「たった二年くらいでこんなにも変わってしまうものなのね・・・。」
 そんなことを何度も口にしながらアリスは自分の住まいとなる住居を探すために街の不動産屋へと赴いた。
「い、いらっしゃいませぇ。」
 アリスが店内へ入ると見るからに鈍くさそうな雰囲気のアリスと同年代の女の子が店番をしていた。
 慌てて服の袖で口の周りのヨダレを拭いているところを見ると、どうやら居眠りをしていたらしい。
(この店はハズレかしらね・・・)
 そう思いながらも、アリスは応接用のソファーに腰をおろして探している物件の条件を話した。すると店番の女の子、オデットは人が変わったように真剣な表情でアリスの条件を聞き取り、「覚えました」と呟くと、山ほど並んだ棚の台帳からアリスの条件に会う物件をいくつか選び出してきた。
 アリスの中で譲れない条件は城を見下ろせるような小高い丘の上の、周りに人が住んでいないような住居だった。
 しかし、さすがにその条件だけでは不審極まりないので他にもいくつかの条件を付けていたのだが、オデットの提案してくる住居はそれらをことごとく
クリアしていた。
 条件をクリアできる件数が多いのも驚きだが、もっと驚くべきは物件を選ぶときのオデットの迷いのなさだった。
 オデットは全く迷いなく目的のファイルを選び出し、ページも一発で開いてしまう。
「あなたのそれ、もしかして魔法?」
「え?あ、はい。記憶力がいいっていうそれだけの魔法なんですけど、ウチの稼業にはぴったりで。それで父さんの仕事を継いだんです。」
 そういって照れくさそうに頭をかきながらオデットはアリスにさらに物件を提案する。
「・・・と、いうことでアリスさんの条件に合いそうなのはこの5件ですね。」
「なるほどね。じゃあこの物件でお願いできるかしら。」
 そういってアリスが指差した物件を見て、オデットが困ったような顔を浮かべる。
「あのう、アリスさん?私の説明聞いていました?その物件は――。」
「ちゃんと覚えていますよ。小高い丘の上、周りに民家もないせいで、管理が行き届かず、ゴロツキのたまり場になってしまっている。でしたよね。」
「はい。ですから私はすぐに引っ込めたんです。一応お城には届けていますけど、なかなか動いてくれなくて、いつになったら立退きをしてくれるかもよくわからない状況なんです。それによしんば立ち退いてもらえたとしても、とても女性一人で安心して住めるような場所じゃないんですよ。」
「大丈夫。私こう見えても強いですから。それよりもそのゴロツキを追い出したら家賃少しお安くならないかしら。」
 そう言ってアリスはうふふと笑った。

 問題の家は店を出て程なくして見つかった。
 ゴロツキの排除も問題なく行った。
 アリスとしては出来る限り手荒なマネはしたくはなかったのだが、ゴロツキが絡んでくるので、少し手荒になってしまった。
 そこはアリスとしては反省するべきところである。
 しかし、それよりも反省するべきは、この娘の侵入を許してしまったことだと言える。
「アリスさんすごいです!大魔法使いです!弟子にしてください!」
 アリスがこの家に住み始めた翌日。ゴロツキを排除しに来たときに心配でこっそり付けてきていて一部始終を目撃していたらしいオデットが鼻息も荒くアリスの新居に押しかけてきた。
 アリスはそれを追い返せずにうっかりと家に入れてしまった。
 それが運の尽きだった。
 翌日からもオデットは暇を見つけてはアリスの家にやってくるようになった。というか、いつ働いているのかという位の頻度でオデットは連日やってきていた。おかげで、城の監視業務に支障が出ている。
 はっきり言ってしまえば邪魔だ。
 はっきり言わなくても邪魔だ。
「・・・ねえ、オデット。」
「はい、なんでしょうか。」
「なんというかね、その・・・」
 とは言え、まったく悪気なく、しかも差し入れを持ってきてくれるこの子を無下に邪魔だ、出て行けというわけにもいかない。
 決してオデットが作る差し入れのお菓子が美味しいからではないが、ただ、その影響が全くないとも言えない。
 アリスだってお菓子が大好きな年頃の女の子である。
「アリスさんは、こんな不便な家で何されてるんですか?」
「・・・星の観測だって、最初に言わなかったかしら。」
「言ってませんよぅ。高台で周りに民家のない家ってしか聞いてないです。」
「そう。じゃあ、私の仕事は星の観測。OK?」
「はい。覚えました。それにしてもロマンチックなお仕事ですよね、星の観測なんて。」
「そうでもないわよ。昼夜問わず望遠鏡を覗き込んでいるだけなんだから。」
「え?昼間もですか?」
「もちろん。だから本当は今も望遠鏡を覗いていなきゃいけないんだけど・・・。」
 チラリと、わざと迷惑そうな視線をオデットに向けながらアリスがつぶやく。
 お菓子は惜しいが、任務を果たせないのでは本末転倒である。
 アリスは迷いに迷った結果、泣く泣くオデットの差し入れを切り捨てることにした。お菓子か任務かで一週間迷い続けたことを考えればアリスにとってこの決断がどの程度重大な決断だったのかわかっていただけるだろうか。
「じゃあ、わたし明日からは差し入れだけ置いて帰りますね。」
 アリスはオデットのその提案に『よっしゃあ!』と、うっかり叫びそうになる心を抑えながら、努めて冷静なふうを装って言った。
「差し入れだけもらうなんて悪いもの。もう私のことは構わなくて大丈夫よ。」
「いえ、そんな。あのゴロツキ達を追い払ってもらいましたし。大家としては店子さんの健康状態なんかも気になりますし。あ、でもお邪魔ですよね。