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海竜王の宮 深雪  虐殺7

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「承知いたしました。・・・では、手配を整えて参ります。」
 シユウが何かしら仕掛けてこないように、竜の領域ギリギリのところに部隊を、いくつか展開する。それから、この騒ぎについての説明を天宮にして、けっして、こちらに非がないことを明白にしておかなければならない。そうでないと、戦になったら、どちらも処罰されることになる。そこいらの交渉は、紅竜王に任せることにした。



 簾は意識すらない小竜の手を握り、ずっと寝台の側についていた。もし、可能なら自分の生気を奪い取って回復してくれ、と、念じていたのだが、その気配は感じられない。力を使い果たした小竜は、いつも代謝活動を最低限に落とし、生気の回復を優先する状態になる。その状態だから、何も届かないのだが、簾は離れる気にはならない。消毒用の強い酒を、時たま、口にしているだけだ。
「簾様、九弦天女様が先触れです。」
 もちろん、この西海竜王妃の私宮の一角は、人払いがされていて、王妃である静晰しか出入りしていない。外から声をかけて、入ってきたのは、二人。一人が、この宮の主人、もう一人が、謡池のナンバーツーだ。
「・・・・簾・・・おまえ・・・」
 あれから数日だが、負傷している簾は、すでに顔色が悪い。さらに、寝台で眠っている小竜も透き通るような白い肌だ。まるで死人のような有様で、九弦も息を呑む。左目は包帯で覆われているが、まだ血は止まっていないのか、うっすらと赤く染まっている。
「すまない、九弦。でも、おまえで助かる。左目を完全にやられているんだ。毒矢だったから、眼球ごと引き抜いたんだが、おそらく全身に毒は廻っている。霊水に身体ごと沈めて解毒させたい。・・・・それだけの量となると時間がかかる。どうにかしてくれるか? 」
 戦闘部隊を率いている九弦なら、搬送する手は持っている。霊水を湯殿に満たして小雪を沈める。少しずつ、霊水を入れ替えて解毒するとなると、大きな瓶が五つは必要だ。そこいらを説明して、簾はじっと九弦を睨む。できないとは言わせない、と、暗に言っている。
「・・・わかっている。そちらは、なんとかするさ。とりあえず、飲ませる分だけ運んだ。・・・だが、霊水を貯めるには五日はかかるぞ。それは承知しているな? 」
「承知している。・・・とりあえず、傷口を洗って霊水を飲ませておく。毒は、それほど大量には浸透していない。時間は、なんとかなるはずだ。」
 小さな竜は、意識もない状態だ。だが、白銀の鱗の美しい竜体は背後に現れている。それを眺めて、九弦も微笑んで、小竜の髪を梳く。
「くくくく・・・碧め。とんでもない生き物を養育しおったな。」
「あのボケ仙人らしいだろ? この年でシユウの宮城と、そこにいたシユウ全てを滅した。規模がでかすぎて笑えた。」
 九弦も、かの仙人のことは知っている。というか、教育係の一人だった。だから、かの仙人の養い子が、黄龍に婿入りしたと言う話には、驚いたものの喜んでもいたのだ。願ったものを叶えたから、こんな形で近況を報せてくる。それはそれで、喜ばしい。ただし、かの仙人がマトモではなかったから、養い子もマトモではない。
「・・・碧には、そんな力はなかったはずだが・・・まあ、いい。元気そうで何よりのことだ。」
「まあな。・・・また、時の流れの先に行ってしまったから、もう小竜の保護者として存在していないがな。」
「お二人とも、そんな昔話は、後にしてください。まずは、小竜に霊水を飲ませます。」
 四方山話を始めてしまった二人に、痺れを切らし、静晰は九弦から預かった瓶から霊水を取り出して、小竜に飲ませる。抱えられるほどの小振りの瓶だ。飲ませる分しかない。本来なら、左目の傷も洗いたいのだが、それは控えた。
 簾を下がらせて、処置を始めるので追い出されたほうは、背後に移動した。
「私の女房は生きてたか? 」
「半死半生だな。西王母様が、意識を奪って結界を張って治療を命じられた。・・・あのまま、戻るとか言ったらしいぞ? 」
「はははは・・・そりゃそうだろう。あれは、私の許へ戻れるなら命も賭けるさ。」
 それが判っていたから、予想して西王母に依頼しておいたのだ。半死半生の状態なら、そのまま監禁して治療をしてくれ、と。簾としては、一緒か、後からがいい。先に蓮貴妃に儚くなられたら、悲しくて死にたくなる。それぐらいに愛している存在だ。
「おまえだけだ。西王母様に肉体労働をさせるバカは。碧と同じくらいバカものだ。」
「やめてくれ、私は、あれよりはマシだ。母上を泣かしたことはない。」
「いや、似たようなものだろう。・・・おまえ、大丈夫なのか? 一緒に謡池に戻ったら、どうだ? 」
 明らかに顔色が悪い。朱雀が、こんな水ばかりの場所にいるのは、危険極まりない行為だ。治療の目処が立ったのだから、まず、簾の体調も整えよ、と、申し出たが、当人はカラカラと笑って首を横に振る。
「我が子を置き去りなどできるか。あれはな、意識が戻ったら母の胸が必要な生き物なんだ。私がいなくて、どうする? ・・・とりあえず、現状の確認はできただろ? 九弦。速やかに、母上に言上してくれ。」
 さっさと帰れ、と、目が睨んでいる。こうなると、簾も梃子で動かない。わかった、と、九弦も、そのまま戻った。まあ、報告に、「簾が儚くなりそうです。」 とは、付け足すつもりだ。



 謡池では、着々と準備が進められていた。まず、瓶三つ分を三日後に運ぶことにした。それだけあれば、最低限、湯殿を満たせる。そこからは随時、力のある麒麟が運ぶことになった。目処だけつけると、仕切りをナンバーツーに押し付け、謡池の主人は崑崙へ出向いた。東と西の果てなので、時間がかかる。

 すでに、日はとっぷりと落ちていたが、明かりの点った部屋がある。そこが目的の場所だ。窓を外から開いて、「ごきげんよう。」 と、声をかける。
「おやおや、あなた様。お珍しい登場の仕方だ。」
「おほほほ・・・忍んでまいりませんと、あなた様だけに会えません。」
 何かございましたか、と、相手は動じた様子もなく、席を勧める。西王母も、そちらに座り、「はい。ございました。」 と、話を切り出した。
「私たちの孫が大怪我を負いました。」
「え? 小竜が? 」
 さすがに、古今東西、どんな事象も熟知している東王父でも、妻の言葉には驚いた。ご内密に、と詳細を説明されて、やれやれ、と、あごひげを右手で梳いて苦笑する。
「なんと、力のあることだ。」
「別に、それは構いません。林太郎殿も、そうでございましたし、あの子自身も強い超常力を持っております。後々、これは竜族には必要なもの。・・・ですが、身体を損なうほどの傷はいけません。あなた様、滋養のクスリなど、ご存知ではありませんか? 」
「もちろん、存じておりますよ、あなた様。それだけではいけませんね。傷口の再生を早める効果のある薬も必要でしょう。もしかしたら、痛み止めや解熱剤なども。・・・いや、まず栄養を摂取させねばなりますまい。成長途中の深雪には、それが、もっとも必要だ。」
「その材料に、お心当たりは? 」
「ここに入っております。・・・手伝っていただけますか? あなた様。」