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Twinkle Lights

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第一話『流れる星の少女』


退屈。
幼い少女が持っている語彙に、その言葉はない。だが、時が経てば気づくだろう。それが、彼女の今を最も端的に表す言葉だということを。
周囲を見渡せば青き輝きが満ちる。彼女たちが「花」と呼ぶ、その煌びやかな絨毯はどこまででも広がっていた。
人間にとっては、思考を奪われるほど稀有な光景も彼女にとっては日常に過ぎない。彼女の行動範囲はどこも同じ。好奇心旺盛な時代を、変わらない景色の中で過ごしていた。
これを「退屈」と言わずに何と言うだろう。

何をする分けでもなく、色々と物思いにふけってみる。色々と心の探索をしていると、一つ引っかかってきたものがあった。
「トモダチ……」
聞き慣れないフレーズ。故に心に強く残っている。
その言葉を聞いたのはつい最近のこと。毎日忙しく、会話すらろくに交わしていない母が話し相手になってくれた時だ。
母が彼女くらいの歳の頃。襲ってきた様々な窮地を共に歩んでくれた者がいた。お互いがお互いを好きで信じていて、心から分かり合える。
そんな関係を「トモダチ」と言うのだそうだ。
「ライツには……ん? いない?」
自身のこれまでを振り返ってみる。母が言う定義に当てはまる者を彼女は知らない。探せば探すほど、心の中にある空虚な部分が広がっていた。
幼き心が欲していたのは正にそれだったのかもしれない。
「トモダチかー、ライツのトモダチってどんなかな?」

仲が良く、いつも一緒に遊んでくれる者なら多少覚えがある。そして、自分を好いてくれていると言えばルーミが一番だろう。
口を開けば小言ばかり言うのが気に入らなかったりするが。それでも、彼女はルーミを一番信じることができる。何かあれば、恐らく母よりもルーミを頼るに違いない。
その想像があまりにもリアルで、彼女の心に引っ掻き傷をつくる。
しかたない、母は何というか、彼女達とは「違う」のだから。そして、彼女自身も他の者とは違っているのだ。
ああ、そうかと彼女は一人納得する。ルーミを「トモダチ」と呼ぶのには違和感があったのだが、一つ理由を見つけた。
「ライツが子供で、ルーミが大人だからかぁ」
二人の間にある壁のようなもの。それは精神的な隔たり。もちろん、彼女はそれがそういうものだと知らなかったのだが、常に微妙な距離を感じていた。

しかし、そうなると彼女に「トモダチ」を探す術はない。
なぜなら……この国に彼女以外の子供は存在しないのだ。

「はやく大人になりたいな~」
自身が成長した姿を想像する。ちょっと楽しくなってきた。
先程までどんよりとしていた空に晴れ間が差したよう。落ち込んだりもするけれども、すぐに立ち直るのは幼さの長所である。
心の速度に合わせて、自身のスピードを上げる。鼻歌混じりに、森の木漏れ日と戯れながら。
どんどん景色は過ぎ去っていく。彼女は気づかない。もうすでに、自分の行動範囲を外れてしまっていることを。

「あ、あれ?」
ふと、胸騒ぎがして立ち止まる。彼女は一度も見たことがない景色の中にいた。
「真っ暗」
誰に言うわけでもなく呟く。
彼女は知らない。ここは闇に近き場所と呼ばれていることを。

この国の大人達も滅多に近寄らない。空間そのものがねじ曲がり、足下さえおぼつかない危険地帯。国境近くの不安定な場所だ。
並の者なら恐怖を感じるだろう。だが、そんな場所も彼女の好奇心はそんな怖さを吹き飛ばすほどに大きかった。
「退屈」が消え、わくわくが生まれる。
「わ~い」
無邪気に飛び回っていると、黒一色だった世界に明かりが灯った。
「何だろ、コレ」
明りに近寄ってみる。眼下には大きな穴が広がっていた。その奥の方に見える、今まで感じた事の無い無数の光。
光なら見飽きるほど見ているのなら、その全てと違っていた。
「なんか、カタイ?」
率直な感想。直観的なもので何の根拠もなかったが、彼女の信じる世界からソレは外れていた。
導かれるように穴に近寄る。そして、覗き込む。冷たい風が吹く闇の中、輝きが広がっていた。遠く、ずっと遠い場所でそれは瞬くことなく一定の光量で灯っている。
もしかして、あの光は「生きて」いないのだろうか。
「おお~」
自身の予想に感嘆の声を上げる。そうだとすれば大発見だ。光というのは「生きて」いなくとも、光り輝けるのだ。
瑠璃色の瞳にその輝きが映る。それ以上に、彼女の瞳は強い意志の光を放っていた。
「んしょ」
届くはずがないのに一生懸命手を伸ばす。穴の淵から身を乗り出すように。
できることなら捕まえてみたい。その光は本当は遠く、どう考えても掴めない距離にある。
だが、不可能という言葉は彼女の頭の中にはなかったのだ。少女の眼前には可能性しか見えないのだから。

グラリ、と世界が大きく縦に揺れた。
「ひゃあ!?」
重心が大きく傾き、彼女は穴に吸い込まれるように落ちていく。
本来なら『落ちる』ことなどない。そもそも重力など、彼女には関係のないものだ。
だが、暗き穴は彼女の持つ常識すら奪っていた。穴の中に入った瞬間に押し寄せた濃い、あまりにも濃厚な気配。彼女は胸を潰されるような痛みを感じ、そしてそのまま意識を失った。

少女は知らない。その穴が歪みによって生み出された人間界への入り口だということを。そして、彼女の運命を変える出会いが待っているということも。
作品名:Twinkle Lights 作家名:Hiro