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Bataille de la saison

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《Ete》


 明かりを灯し、眠ることを知らぬ夜の街。乱立する高層ビル。夜のしじまを破る列車の音。ビルの間から現れて夜の街を駆け抜けていく。
 宵闇に染まった髪が少し冷たい夜の風になぶられる。地上は遠く、喧騒もまた遠い。その中で、列車の駆ける音だけがビルの間をこだまする。
 地上を見下ろすと、ビルの間を縫うように建てられた陸橋の上を貨物列車が駆け抜けていく。双子のように並び立つビルの間から、今、立っているビルの前へと。
 そして、空中へ向かって一歩踏み出す。風を切る音。重力に従い真っ直ぐに落ちていく。高速で下から上へと流れる風景。真下を走る列車の姿を確認し、背中に背負っていた黒い装置を手に取る。一見すると銃身の短いピストル。そのトリガーを引くと手の中の装置からワイヤーが飛び出した。落ちていく身体は振り子のように揺れて、夜の街を駆け抜ける。再びトリガーを引くとワイヤーが切れた。一瞬の浮遊感。その後に疾走する貨物列車の上に着地する。揺れる列車。吹き抜ける烈風が髪を乱す。決して広いとは言えない列車の上を歩き、一番近い場所にあった天井のハッチを蹴り開けた。
 列車の中には何の変哲もないコンテナがいくつか並んでいるだけだった。どうやらここに積まれているのはただの貨物のようだ。目当てのものが見当たらないなら、別の車両に移るしかない。踵を返し、列車の進行と同じ方向へ歩みを進める。

 前途を阻むのは何者だろうか。

 進もうとした先、行く道を阻むようにいくつもの影が現れる。

 前進を阻むのは何者だろうか。

 いくつもの影は、侵入者を排除するべく牙をむく。

 再会を阻むのは何者だろうか。

 影の瞳は昏い欲望を宿している。

 そして戦士は刃を抜く。

 白刃が煌めいて影の頭部を斬り取った。黒い塊が弧を描いて飛び、地面に転がって塵と化す。振り返って刃を突き出し、そこにいた影を貫く。左手の装置のトリガーを引くと、現れた銀の刃が影を斬り裂いた。
 黒い塵が風に流れて消えていく。駆け抜ける烈風に服と髪をはためかせながら、立ちふさがる影たちに双つの刃を向けた。
 右手に剣を。飛びかかってきた影を右の刃で貫く。
 左手に剣を。迫り来る影を左の刃で斬り裂く。
 胴を斬り真っ二つに叩き斬り、宙を舞って首を落とす。影の攻撃を避け、列車上から蹴落とし、風に舞う黒い塵を浴びる。
刃を振るい、円舞曲(ワルツ)を刻み、影を斬り裂きひた奔る。
 ――そして、たどり着いたのは、
 目指す車両の一つ前。そこに立ちふさがっていたのは、双つの刃を持った黒い影。両手の刃が街の明かりを受けて鈍く光る。既視感のあるその姿を見て、両手の刃を構え直す。
 侮ってはいけない。でなければ。
 動き出したのはどちらが先か。宵闇の中で双剣がぶつかり合う。右に、左に。繰り返される斬撃。繰り出される連撃。刃がかすめ、血がしぶく。不安定な足場が、流れる風が、刃を押しとどめる。
 明らかに、有利なのは影の方だった。追い風を背にこちらへ近づき、その手の刃を振るう。一方で、こちらの剣は向かい風に阻まれて本来のスピードを出せない。繰り出した斬撃はことごとく防がれ、代わりに影の刃が神速を持って襲い来る。
 影の頭部に向かって突きを放つ。――黒い刃で逸らされる。
 左の刃で胴を狙う。――もう一つの刃で防がれる。
 右手を引いて新たな斬撃を放とうとする。――その前に、黒の刃で肩を斬られる。
 痛みをこらえて右の刃を水平に薙ぐ。――影は宙を舞い、その刃を避ける。
 地面を蹴って、空中の影めがけて刃を振るう。――影は刃を交差させてそれを防ぐ。
 受け止められた刃を引こうとする。――影は刃を捕えたまま宙で回転して蹴撃を繰り出す。
 腹に強い衝撃をくらって、振動する車上に叩きつけられる。―――影はまっすぐに刃を振り下ろす。
 転がってそれを避ける。――影の刃が車体に食い込んで高らかな金属音を立てる。
 その隙を狙って刃を振るう。――しかしそれが届く前に、影の斬撃が腹をかすめる。
 飛び散った鮮血が風にさらわれ消えていく。腹部を濡らすそれに構わず銀の刃を振り抜くが、影に届くことなく高らかな金属音を響かせるのみ。交差して放たれた黒い斬撃が、右腕に赤い線を刻んだ。
 影が黒き刃を振るうたび、赤い血が飛び散る。致命傷は避けるも、確実に斬り裂かれていく。そして、
 影の重い一撃を両手の刃で防いで。衝撃で後ろに吹き飛ばされて。列車上から足を踏み外し、落ちていく。
 遠ざかる貨物列車。遠ざかる影。スローモーションを見ているかのようにゆっくりと、それは遠ざかっていく。赤い滴が風に流され、刃を握る手から力が抜けた。
 列車が駆ける陸橋の下。オレンジ色の街頭が道路を照らしている。行き交う車。行き交う光。そこへ向けて落ちて落ちて落ちて。
 重力に身を委ねるようにそっと目を閉じて。

 その瞼の裏に、嘲笑う仮面の男の姿が映った。

 刃を握る手に力を込めた。幻影を振り払うように目を開いた。このまま地に堕とされる訳にはいかない。戦わなければ。探さなければ。
 奪われた物を取り返すため。

 トリガーを引くと刃の柄の装置からワイヤーが飛び出した。夜の闇を斬り裂いて、右手のビルに突き刺さる。
 ワイヤーが巻き上げられ、上昇していく身体。再び落下する前に、今度は左へ。先行く列車を追って、空中を疾走する。そして走る列車に追いすがり、車体めがけてワイヤーを放つ。
 双つの刃を携えた列車上の黒い影。こちらに背を向けている。
 列車めがけて空中をまっすぐに奔る。――気付いた影が振り返る。
 両手に握った刃を構える。――影が双つの黒い刃を構える。

 衝突する双りの戦士。刃を砕き、胴を裂き、その場に崩れ落ちたのは。

 黒い影が塵となって消えていく。列車上に立っているのは銀の刃を携えた者ただ一人。流れる風が宵闇に染まった髪を乱す。

 ――再会を阻むのは何者だろうか。

 振り返ることなく、探していた車両(場所)へ向かう。そこに、探しているものがあることを願って。

作品名:Bataille de la saison 作家名:紫苑