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真朱@博士の角砂糖
真朱@博士の角砂糖
novelistID. 47038
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即興小説トレーニングまとめ

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1.早すぎた私

貴方の一番好きな私になりたいの。
だからあと2分だけ、待って欲しい。
ねぇ、そんなに焦らないで?
じっと、あと2分、私が貴方好みに仕上がるまで。
…そんな目で見つめてもだめよ。
私、貴方に愛されたいの。
ねぇ、愛してくれる?
すべすべの真っ白な肌。
優雅な曲線。
とろりとした蜜。
全部全部、貴方の物よ。
だから、ねぇ、もうちょっとだけ待って。
だめ、まだ早いわ。
いやよ、だめ、だめだったら…。

ああ、貴方は早すぎた。
ああ、私は早すぎた。

固いテーブルに頭を打ち付けられる。
純白の服を脱がされる。
柔らかな私の白い肌。
貴方に食べられる。

私の黄色いさらさらの蜜が貴方の指を這う。
貴方が顔をしかめる。

…早すぎたかな。

だから言ったのに…。
ねぇ、私、貴方の一番好きな私になりたかった。






2.黄色い終身刑

横たわり目をとじれば、黄色。
向日葵か。銀杏か。いや、檸檬か。
何の黄色なのかは、もう忘れてしまった。
ただ毎晩、変わらぬ黄色。
黄色が私を包み込み、責めるのだ。
絵の具のようにどろどろと。
懐かしくあたたかな、悲しく寂しい心持ちで、
私は、黄色に抱かれるのだ。
あの日の風景に、黄色などあっただろうか。
すべてが灰色だったあの日の風景に。
黄色が犯す。
過去を。未来を。あの日を。
黄色に犯される。
私の網膜が。
横たわり目をとじれば、黄色。
包丁の柄か。彼女のワンピースか。いや、あの部屋のカーペットか。
何の黄色なのかは、もう忘れてしまった。
私は一生逃れられない。
この灰色の独房と、
毎晩の黄色から。
忘れてしまって思い出せない、
なにか重要な黄色から。
黄色がさらさらと風に揺れる。
黄色がさらさらと頬を撫でる。
黄色がさらさらと
黄色がさらさらと
黄色がさらさらと
私を…。






3.殺されたヒーロー

にいちゃんがヒーローじゃなくなってしまった。
物心ついた頃から、ボクのヒーローはいつだってにいちゃんだった。
いじめっ子をやっつけてくれるのも、大きな犬を追い払ってくれるのも、母さんに事情を話してくれるのも、全部全部全部。…いつだって、にいちゃんだった。
そのにいちゃんが、いま、まるで抜け殻みたいなんだ。

にいちゃんにできないことはない。
そう信じていたのは、ボクと、それから、他の誰でもない、にいちゃん自身だった。
にいちゃんにできないことなんかないんだ。
その確信は、無意識だった。
そのくらい、ボクにとってもにいちゃんにとっても、当然のことだった。
でも、なんでもできるだなんて、そんなの幻想だってこともまた、当然のことだった。
問題は、ボクもにいちゃんも、その可能性を1ミリだって考えなかったってことだ。
にいちゃんはなんでもできるヒーロー。

でもボクはにいちゃんが抜け殻になったいま、気付いたんだ。
なんでもできるのはヒーローじゃない。
スーパーマンだ。
にいちゃんとボクは、にいちゃんをスーパーマンだと勘違いしてたんだ。
ほんとは、ヒーローになら、ほんとうに、なれるのに。
にいちゃん、ヒーローになってよ。
スーパーマンじゃなくていいからさ。
ボクを守って、なんてもう言わないし。

でもにいちゃんはどうやら、もうダメだ。
スーパーマンじゃなかったことがショックで、心が寝込んじゃった。
ヒーローはスーパーマンじゃなくていいのに、それに気付かないんだ。
ボクが励ましてもきっとダメだ。
にいちゃん、ボクすら弱者じゃなくなっちゃったら、…きっともう起き上がれない。

つまりはこう。
スーパーマンに殺されたヒーロー。