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シロクロモノクローム

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第十九話:食べるという事



 「いつまでも泣いてるんじゃない。次はメシの時間だ」
涙が枯れて、泣き疲れ、虚脱状態のぼくを尻目に、クオリアさんは、バグの残骸のそばに寄った。
そして、また何かブツブツとつぶやくと、クオリアさんの手の中から、大きな肉切り包丁が現れた。
クオリアさんは一つの迷いもなく、その肉切り包丁でバグの頭部を切り落とした。
次に流れるような手さばきで皮をはぎ、内臓を引き出して、四肢を切り分ける。
数分とたたないうちに、バグの残骸は、スーパーで売られているような、肉の塊となった。
一仕事終わったクオリアさんは振り返り、ぼくに向かって聞く。
「俺は別に生でもいけるが、お前の場合は火を通したほうがいいかもな」
「いいです」
「腹壊すぞ?」
「食べないって言ってるんです」
ぼくはクオリアさんを見ないで、ただ白い地面を見つめていた。
お腹は確かに減っていた。けれど食欲がなかった。
突然、頬に衝撃が走った。クオリアさんに、ぼくはビンタされていた。
驚いて顔を上げる。クオリアさんはまるで、子供を諭すかのような口調で言った。
「ここはおかしな世界だが、喰わなければ死ぬ。それに喰う事は、殺したヤツへの礼儀でもある。喰えばお前の中でこいつは生き続ける。だから、喰え」
クオリアさんは、さばいたモモ肉を一つ手に取り、何かをつぶやく。手から火が噴き、持っていた肉がこんがりと焼けあがる。その肉を、クオリアさんは僕に差し出した。
初めて自分で殺した生き物の肉は、おいしくて、なぜだかちょっとしょっぱい味がした。

作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景