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ORIGIN180E ハルカイリ島 中央刑務所編 11

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1.対決模様



 ミットンとアモーは二人だけで手術室にいた。
 以前まであった機材はあらかた片付けられ、レイクは本部室のベッドに戻されていた。最後まで残っていた看護師も、作業が済むとナース室へ戻っていった。
 手術室の横にある別室では、技師が一人だけまだ残っていた。彼は部屋の機器に向かい、少年の容態に変化はないか経過を見ていた。


 医者たちは手術室での処置が済んだ後、この部屋に残って話し合いを始めた。
 タケルの問題は何とか解決したが、今度はレイクにつけられた新チップをどうするかで頭を悩ませていたのだ。
ア「僕は反対だ。チップがないと痛みがひどいのかもしれないが、傷を治そうとする人間の自然な回復力を尊重したい。下手に器械に依存してしまったら、彼を元のちゃんとした生活に戻せないような気がする」
ミ「だがあの手術はチョースの言う通り、確かに異常な代物だった。体内にまだ残ってるナノ線の事もある。老住の作業で脳幹まで戻せはしたが、それがまだ存在している事実に変わりはないだろ」
ア「君ともあろう者が、学生に後遺症を指摘されて心配してるのか?自信を持てよ。大丈夫だ、あの子はきっと良くなる。彼らのチップを取り外そう。何よりレイクがあんなに嫌がってる。これがひどい事だとは思わんのか、あの体は彼の物なんだぞ。本人の言葉を無視するのか」
 ミットンは首を振ってうつむいた。
ミ「もしあのチップが無かったら、何か非常事態が起きた時にどうする。ルーはもうすぐ、政府の技師が取り除いてしまうんだぞ。レイクが突然容態を悪化させたり、もしまた急に姿を消したら?次も偶然に、その居場所が分かるなんて保障はないだろ。‥きっとその内、政府が彼を入り用になって連れに来る。そうしたら、どうやって彼の安否を知る事が出来るんだ」
ア「とにかく僕は、全部取り出すべきだと思う。チップも、ナノ線も、何もかも。一体いつまであんな哀れな状況に彼をさらしておくんだ。そもそも、老住が余計な欲を出したりしなければ…あいつがチップの情報を得ようなんて思わなければ、レイクはとっくの昔に体内の物をすべて吐き出して、普通の子供に戻ってた」
ミ「それは違うだろ。希望的観測で物を言うな。彼は元々、普通の子供じゃない。生まれた時からすでに、その存在自体が反乱軍の道具だったんだ」
ア「だが彼は人間だ。僕達と同じ血の通った人間だ。必死に救済を求めている魂を、僕は何とかして助けてやりたい」
 彼はそう言って手術室を出て、レイクの所へ歩いていった。
 結論はまだ出ていなかったが、仕方なくミットンもその後に続いた。



 大部屋に置かれたベッドにレイクはいた。
 少年は起きていて、一通りの検診が終わって休んでいる所だった。少し前よりは幾分、精神が安定してきたように見えた。
 彼は近づいてくるアモーらの足音に気づいて、視線を二人に向けた。
 医者が口を開く前に、彼は自分から話しかけてきた。
レ「コンピューターを使わせて下さい」
ア「まだ体を動かすべきじゃない。指は脳に、かなり直接的な刺激を与えるからな」
レ「じゃ誰か、俺の代わりにキーを打ってくれる人を探してください。このままじゃ駄目だ」
ミ「君はユースの作ったチップを、どうしても拒否するのか?」
レ「人に操作されるのはもう御免です。痛いのも嫌だけど…。とにかくユースのやろうとしている事は信用できない」
ア「今すぐ取り出してしまえばいい。まだナノ線は張り出していないだろ?」
ミ「簡易のチップだから、そもそもナノ線を内蔵してないかもしれない。明日までに詳しい構造を提出すると、チョースが言っていた」
ア「それだと手遅れにならないか?」
レ「確かに…無理に取ろうとすると、反撃に何をされるか分からない。だからその前にユースと戦って、あいつの首根っこを押さえ込まなきゃならない」
ミ「無理だ。コンピューターでどう戦うのかね?」
レ「奴とオンラインゲームで対戦する」
ミ「君ほどにキーを扱える人間などいない。私の指使いはかなり遅いし、アモーは機械オンチだし‥。救護科の他の誰かだって、とてもユースと対決など出来ないと思うよ」
レ「とにかく、パソコンなら何でもいいから調達してきてください」
ア「そういえば、老住から取り上げた小型のノートパソコンがあったな。窓から放り投げられてなければの話だが」
レ「老住の機械なら音声式かも‥。キーが無いやつでしょ?」
 かつて医学部の研修室に連れ込まれた時、レイクは教授が持っているそれを見た事があった。タブレットに近いようなサイズや形をしていたが、性能は普通のパソコン以上だった。老住はそれを自分の声で操作して、レイクの中にいるルーを探ったのだ。
ア「キーはあると思うよ。普通に打ち込んでいたから」
レ「見せて下さい。入力方法を切り替えられるのかもしれない」
ミ「声でそれを操作するつもりかね」
レ「老住以外の声は受け付けないようになってると思う。でもキー入力なら誰でも触れる」

 アモーに言われて、医療助手が老住のコンピューターを持って入ってきた。機械はまだ捨てられていなかったようだ。
 持ってきたのは一番若い助手だったので、ミットンは彼に目をとめて言った。
ミ「君は若いから得意そうだな。これの操作は出来るんだろ?」
ベ「…え?あ。でもこんな機械は初めて見ます。タブレットっぽいけど、島には少なくとも出回ってませんよね」
レ「RN社の最新式ノートだ。その後ろのネジを外して」
 そう言われて、助手は工具を借りに別室へ行った。すると別室にいた技師が、様子を見にこちらへやってきた。
 機械の扱いに慣れているので、技師が作業を任された。彼はパソコンの裏側の覆いを開けた。
レ「多分それだな…。音声入力装置を取り外して下さい。老住の声にしか反応しないよう、他人へのロックがかけてあるから」
 技師はレイクの言うように、装置の一部を慎重に取り払っていった。


 やがて改造が終わって裏蓋を閉め、電源が入れられた。
 コンピューターは問題なく使えそうだった。
 入力方法を打ち込み入力にすると、キーが画面下からスライドして出てきた。画面は好きな角度に立ち上げられるようになっていて、裏に折りたたみ式の支えがちゃんとついていた。ただの板状だった物が、普通の小型ノートパソコンのような形状になった。
 レイクは機械を自分の見える所に置かせて、体を横向きに寝かせてもらった。
レ「動かしてくれませんか。一番、操作の速い人。取り合えず何でもいいから打ってみて下さい」
 その場にいる人間達がみな試し打ちをしていった。
 アモーは自分が最初から使えないのが分かっているので、横で人々のやる事を見ていた。
 技師はさすがに誰よりも手馴れていて速かったのだが、最後に試し打ちをした人物はそれ以上だった。
技「やはり若い人間には負けるな。手つきからして違う」
 それは最初に機械を持ってきた若い助手だった。彼のなめらかな指さばきに誰もが感心した。横からじっとレイクがそれを見ていた。
 助手はベッドの近くに置かれた椅子に座り、その椅子に付いた小型物乗せの上のコンピューターを動かしていた。命令された事を無心にやっていた彼は、横から突然話しかけられてビクリと反応した。