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パシフィスタ
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夏の陽射し

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責める




重い体を引きずって、家に帰ると、普段通りに親は接してくれた。

自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転び、そのまま眠りの世界へ落ちていった。目を覚まし、時計を見ると既に9時を回っていた。


「あ、起きた?」

俺の机で、実澪は勉強していたようだった。

「ずっとここで俺が起きるのを待ってたのか?」

「そうだよ。」

「ごめん。」


俺は実澪に謝った。というより、それしか言葉にできなかった。

実澪を見た安心感も一緒になって、今まで以上に涙があふれ出てくる。


実澪はそんな俺を見ると、優しく抱きしめてくれた。

実澪の腕の中で、俺は泣いた。今はどんな場所よりも、一番落ち着ける場所だった。




「カズかっこよかったよ。一生懸命頑張ったじゃん。やっぱりすごいよ。」


俺は返事もできないくらいに泣いていた。

「頑張ったよ。よく頑張った。うん。」


実澪は俺を優しく抱きしめながら、俺の背中を軽く叩く。

実澪の温もりが、冷えきっていた俺の心を少しずつ温めていく。





翌日・・・


普段通りに実澪と一緒に学校に向かう。
いつもと何も変わらない景色、いつもと同じ道を通る。

何も変わっていなかった、と思ったのも束の間、学校では騒ぎが起こっていた。実澪と土間で別れ、教室に向かう。

教室は、いつものように騒がしかった。その騒がしさに一瞬だが、心が安らぐ。

俺を見つけたクラスメイトは、勇太を筆頭に俺に突進してくる。

「うわっ!な・・・なんだ!?」


バンッ!

勇太が俺の机に紙切れを叩きつける。


「お前、有名人だぞ!」

「は?何言ってんだ?」

訳も分からず、俺はその紙切れを見る。スポーツ紙のようだった。


高校野球開幕!


そう書かれていた文の真下に、でかでかと俺の写真が載っていた。


「うはぁ!!??」


普通、こういうところに載る写真は、勝ち上がったチームの選手が載るものだ。

そこに1回戦で負けたはずの俺の写真が載っていたのだ。


『敗退したものの、球速は最高145kmを計測。1年生とは思えないマウンド度胸を見せた栄光高校の1年生右腕。』


「1年生とは思えない体の出来上がり方、肩や肘の使い方、変化球、どれを見ても、今後に期待できる。だってさ」


勇太がその記事の文面を読み上げる。

「負けてしまったのは、気持ちの緩みが出たのが原因だろう。最終的に持ち直したが、少し遅かった。もし、気の緩みがなければ、面白いことになっていただろう。春の大会は期待できる。」


敗因を的確に指摘し、実際にそれが原因で負けた。
むず痒い記事を一通り眺めると、キャプテンが教室にやって来た。


「おい!渡辺!・・・なんだ、もう見てたのか。」

「今見たところです。」

「いやー、一気に有名人だな。春の大会はマスコミがうるさいかもしれんぞ!」


豪快に笑い飛ばすキャプテン。
昨日負けて涙を流していた人と同じ人物だとは思えなかった。


「・・・そうですね・・・」

俺は軽く受け流す。
その日の授業は全く耳に入らなかった。
先生に指名されても、なんと答えたのかさえ覚えていない。

ただ覚えているのは、その度に勇太が必死にフォローしてくれる姿だけだった。



俺はその日から1週間部活を休んだ。

練習には数人の新聞記者が来ていた、ということを勇太から聞いた。

そんなこと、全く気にならなかった。

そんなことどうでもよかった。


悪夢のような試合から1週間たった今も、全く整理できていなかった。


実澪と一緒に過ごしていても、全く頭に入っていなかった。


ある日曜日、ついに実澪に怒られた。


「カズ!いい加減にしなよ!」

不意に実澪が大きな声を出したので、俺は驚いた。


「どうしたんだよ。」

「いつまでくよくよしてるの?たしかにカズは負けたよ。まずはそのことを受け入れなよ!」

「・・・受け入れてるよ。受け入れてるけど・・・何か・・・」

「受け入れてないよ!!逃げてるだけじゃん!カズは自分の嫌なことから逃げてるだけだよ!」

「逃げてねえよ!!負けたのは・・・負けたのはわかってるんだよ・・・。でも・・・どうやって気持ちの整理を付けていいのかわからないんだよ・・・」


実際、実澪の言うことは図星だった。

負けたのは俺のせいだ。これは間違いの無い事実だ。それはわかってる。

なんで、みんなあんなに早く立ち直れるのかわからなかった。

キャプテンでさえ、翌日には笑顔だった。

なんで、そんなに早く気持ちの整理が出来るのかわからなかった。


「わからないんだよ・・・。なんでみんなそんなに早く立ち直れるのか・・・」

「・・・それは、みんな後悔無くやりきったからだよ。カズだって、全力でやったんでしょ?」

「ああ。」

「だったら、今回はそれでいいじゃん。先輩たちが引退するのが自分のせいだと思ってるんでしょ?」

「・・・」

「先輩たちはカズを責めなかったんでしょ?」

「・・・」

「それは、みんなカズだって全力でやってたと思ってるからでしょ?先輩たちの夏を終わらせてしまった、とか思ってるんでしょ?」

「ああ。」

「そんなのカズのエゴだよ。」

「!!」

「先輩たちだって、頑張って3年間過ごしてきたと思うし、後悔もないから、笑顔になれるんだよ。」


実澪にそう言われて、少し考え込む。


「・・・わかった・・・。」


何かが変わった気がした。
俺の中の気持ちが変わった気がした。

(春に、絶対見返してやる・・・!先輩たちを甲子園に連れていこう。)


この気持ちの変化が俺の野球人としての急激な成長につながる。




翌日から、俺は野球部の練習に復帰した。

何かに取り憑かれたかのように練習した。


もちろん、栄光高校は進学校。勉強もしなければならない。

その両立は大変だった。毎日遅くまで練習し、そのあと勉強をする。

実澪はそんな生活を送る俺をずっとそばで支えてくれていた。


夏の大会の後、落ちかけていた成績もだんだん取り戻した。


作品名:夏の陽射し 作家名:パシフィスタ