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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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見慣れた風景、見慣れぬ風景


 下駄箱に辿り着いた時点で、違和感が有った。
 祐一の通う桜丘学園の下駄箱は個人ロッカー方式で、その気になれば南京錠などで施錠することが出来る。殆どの生徒はそこまでしないが、祐一は施錠派で、念のためにいつものように髪の毛を挟むようにしている。
 が、髪の毛が見当たらない。
 耳を当ててみても、特にコレといって危険な要因は感知出来ない。
 試しにカバンからペンライトを使って隙間に光を当ててみると、中に紙のようなものが挿入されていることに気付いた。
(危険物ではないだろうけど、ね)
 祐一は慎重に下駄箱を開けると、内部に危険物が無いことを確認して、下駄箱から上履を取り出す。
 ついでに、ノートを千切って作ったらしい紙片を取り出すと、内容を確認する。

『死ね!』

 極シンプルな内容だ。
 市販の大学ノートに、黒の細インクのマジックペンで書かれたものだった。
 しかし、違和感……否、正確には『この感情がこの場にあることへの違和感』は続く。
(……代筆だな)
 祐一はこの文字の醸し出す『色』をよく知っている。
 テロ組織との、人質の交換交渉時に用いる手法だ。
 この文字からすると、書いた当人の本意ではないことを書かされた節が『視える』。
 祐一の脳内で、幾つかの出来事がパズルのようにカチカチと音を立て始めていた。
 念のためにメモを折りたたんで生徒手帳に挟むと、注意深く、自分が探していることを悟られないように自分の周囲を確認する。
 視界の端に引っかかったのは、数人の知らない顔だった。
 下駄箱から紙を取り出すと言う、一見奇矯な行動を怪訝そうな顔で見ていた彼らに見覚えが無いか、頭の中で確認するが、記憶に引っかかるところはない。
(偶然の一致か、それとも)
 祐一は念のために、その数人の顔を覚えつつ、その後も自分に向く視線に注意しながらいつものように階段を上り始めた。