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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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虚像と実像 ―平家あずさの家庭生活―


 祐一は、大沢教諭から、『平家を自宅に送り届けるにあたって、平家家でしておくべき事』を幾つか言われていた。
 一つ目は、『挨拶』。
 後暗いところが無い善意の人物であることを証明するために、きちんと挨拶をする。
 次に、『大沢教諭へ電話して、送迎の終了を報告し、改めてご両親の許可を貰う』。
 そうしないと、藤井祐一という人物が、ご両親の目から見て、『娘を送り届ける役目』に相応しいかが分からないからだ。
 送る側の目線だけで考えれば、『善意で送り届けようと言う人間に対して随分な対応だ』とは思うところだが、ご両親の側からすれば、祐一はあくまで『クラスメイト』であって、直に目で見たことのない『クラスメイト』が、それだけで充分信用に足る人物であるかといえばそうとは限らない。
 それ故に、祐一自身も大沢教諭のこの提案をすんなり了承していたし、言われなくともこちらから提案するつもりであった。
 因みに、祐一の携帯電話には、平家の番号の次に大沢教諭の番号が登録されていた。
 流石に、新しく学校用に購入した携帯電話の登録ナンバーの最初に教員の名前が入っているのは、色々な意味で気が滅入るからだ。
 祐一は平家の自宅前に到着すると、平家は直ぐにインターフォンを押した。
「確か、由美香ちゃんに言われてたよね。挨拶とかするんでしょう?」
「あぁ、ご挨拶と、大沢先生への電話だな。ご両親に気に入られなければ、別の人間か先生に交代って事になる」
「その辺は、大丈夫だと思うけどね…」
 平家が苦笑いしながら、答える。
 祐一はその苦笑の理由を問いただそうと思ったが、それより先に玄関ドアが開いた。
「お帰りなさい。大丈夫だった?」
 現れたのは、四十代半ばの女性だった。
 顔立ちから見ても、彼女が、平家の母親であることは間違いないだろう。
「うん。お母さん、こちらが…」
「あぁ、わざわざ送ってくださるって言う、クラスメイトの…」
 平家の言葉に、母親らしき人物が割り込んでくる。
 祐一は丁寧に一礼した。
「初めまして。藤井と言います。平家さん…あずささんと、色々ご縁が有って、暫くの間お嬢さんをお送りすることになりました」
「藤井くん、クラスメイトを『お嬢さん』だなんて」
 型にはまった祐一の挨拶に、平家あずさが苦笑する。
 しかし、平家の母は祐一の挨拶を見て、何か思うところが有ったようだ。
 少なくとも、もう少し軽い気持ちで送ってきたようなイメージで見られていた状態は払拭されたように『視えた』。
「あら、御丁寧な方なのね。初めまして、あずさの母です。良かったら、一度お上がりくださいな。自転車はそこへお願いできますか?」
 その口調は穏やかながら、安心感と言うより『得体の知れない者』を見るような『色』が『視える』。
「いえ、こちらで構いませんが…」
「あぁ、言い方が悪かったわね。きちんとしたお話をさせてもらいたいから、一度上がっていって。丁度主人もいることだし、顔を見せて行ってくださいな。藤井さんも先生に連絡しなければならないんでしょう?」
 平家の母が、おっとりとした笑顔で、祐一に促す。
 もしかすると、却って警戒させてしまったのかも知れない。
「そういう事でしたら…」
 シャッターの降りたガレージと、ガーデニング用のスペースの横に有る隙間に、自転車が数台置かれている。
 その中に、祐一も自分の自転車を置いて、タッパーウェアの空箱を入れた袋と平家のカバンを取り、平家に手渡す。
「藤井くん…」
「いや、ご近所迷惑になってもいけない。あまりここで立ち話を続けると、ね」
 平家あずさに『余計な虫』がついていることが近所で噂になるのは、平家の母にとってあまり好ましい話ではないのだろう。
 祐一は促されるまま、自転車に鍵を掛けると、タッパーウェアを入れた袋を平家から受け取って平家宅のドアを潜った。