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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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待ち合わせ


「お、来たな、藤井」
 祐一が待ち合わせ場所に指定されていた正門近くのベンチに到着すると、そこには既に池本を始め、空手部の数人がコーラス部の数人と混じって会話をしているところだった。
 お互いに、『全員揃ってから帰宅しよう』という話をしているところだったらしい。
「おう。空手部もコーラス部の子たちも、腹、減ってないか?」
「うぅ、忘れようと思ってたのに。減ってるに決まってるだろ。練習後だぞ」
 祐一の問い掛けに池本は恨めしそうに答える。
 どうやら空手部、コーラス部共々、腹は減っているらしい。
「……と、思ってな。晩飯までの『つなぎ』になればと思って、差し入れに軽く摘めるものを作ってきた」
『マジで!!??』
 空手部が食いついた。
「量が分からなかったんで、全員に行き渡る分が有るかどうか怪しいんだが、そこは『つなぎ』だと思って勘弁してくれ。一人二・三個ずつは有ると思うんだけど。皆、自宅に帰れば晩飯有るんだろうし。悪い、そこ空けて貰っていいか?」
 祐一はベンチ替わりにテーブルに腰掛けていた空手部の一人に声を掛けて場所をもらうと、持ってきた大きめのタッパーウェアを三つ、テーブルに置く。
『おぉぉっ!』
 蓋を開けて出てきたサンドウィッチとフレンチトーストまがいの一品に、歓声が湧いた。
「すっげー。藤井、こんなの出来んのか」
 サンドウィッチを囲んで、池本が驚いたように訊ねてきた。
「あぁ、そっちのパンの耳は、余った奴をフレンチトーストっぽくした奴だから、手が汚れるぞ。ウェットティッシュと爪楊枝も持ってきたから、使って、終わったらこっちのポリ袋に捨ててくれ」
 一緒に持ってきた消毒用アルコールの入ったウェットティッシュと爪楊枝をテーブルに置くと、瞬く間に爪楊枝が減っていく。
 正しく欠食児童。
 この手の光景は見慣れたものだったが、『どこへ行っても食べ物は受けるのだなぁ』と、祐一は再認識した。
「うぉ、何か人が群がってる!」
 そこに、自転車を押しながら平田と平家、尾形が現れる。
「おう、お前らもちょっと摘めよ。藤井が差し入れだって」
 池本がサンドウィッチを片手に、三人を手招きした。
「えー、マジで!?藤井っち気が利くじゃんな」
 平田が、自転車にその場でスタンドを立てて、真っ先にタッパーに駆け寄る。
「何これー!藤井、自分で作ったの!?」
 続いて駆け寄った尾形が、タッパーウェアの中身を見て、目を丸くする。
「ほれ、早くしないと無くなるぞ。ウェットティッシュがあるから、手を拭いてからな」
 祐一は尾形の言葉に答える代わりに、ウェットティッシュを差し出す。
「…ちゃんと食べられるんでしょうね?」
「カラシが苦手だと厳しいかもな」
 受け取ったウェットティッシュで手を拭きながらも、『半信半疑』と言った具合の尾形に、祐一は肩を竦めて見せる。
 上手かどうかはともかく、一応食べられるものを作ったつもりだ。
「でも、いいの?貰っちゃって?」
 同じくウェットティッシュで手を拭きながら訊ねる平家に、祐一は小さく頷いた。
「まぁ、コーラス部にはこの間の借りもあるからな。あの一件では、結局俺は役に立てなかったからさ。アレ、主にお前と尾形が中心になって集めたんだろ?」
 平家に向けて、声を落として囁く。
 平田の件で平家が祐一に昼食を用意したとき、形式の上では祐一は役に立つことが出来なかった。
 その借りを返していると思ってもらえれば、それで構わない。
「……分かっちゃった?」
 平家が、祐一と同じように声のトーンを落としながら、困ったように眉根を寄せる。
「何となく、な。昼にお邪魔した時の反応とかを見て」
 視線の先では、尾形がサンドウィッチをぱくついている。
 その表情を見ると、どうやらお気に召したのだろうということが容易に見て取れた。
 サンドウィッチもフレンチトーストまがいも、そこそこ好評のようで、あっと言う間にタッパーウェアは空になりつつ有った。
「あずさちゃーん!早くしないと無くなっちゃうよ!」
 尾形が爪楊枝片手に平家を呼ぶ。
 平家はその様子を穏やかに微笑んで手を振り返す。
「じゃぁ、折角だからアタシも頂いてくるね」
「おう、期待しないで食べてくれ」
「フフ、女の子たちの目は厳しいよ?」
「…お手柔らかに」
 苦笑も束の間。
 好評の内にタッパーの中身は空になった。