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ACT ARME 8 殺人機

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よく晴れた日の昼下がり、AROでは何やら緊迫した空気が漂っていた。
「ツェル、そちらの状況は?どうぞ。」
「準備完了です。不発に終わる可能性はゼロでしょう。」
「よし、よくやった。この作戦は絶対に失敗できない。心してかかるよ。どうぞ。」
「了解です。時にルインさん。」
「何?どうぞ。」
ツェリライは手に持っている無線を下ろして、目の前にいるルインに直接話しかける。
「これは必要でしたか?」
「ああ、ちょっと。せっかくいい雰囲気だったんだからそのまま続けようよ。空気って大事だよ?」
5歳児の様にブーたれるルインを見て、ツェリライはこの人だけはつくづくわからないと心中で首をかしげる。
平時はぐーたら・出不精という模範のようなダメ人間なのに、有事の際には同一人物とは思えないほどの凄みを持たせる。正直言って二重人格を疑っているほどだ。
普段はおちゃらけた雰囲気を装っているという考えもあるが
「よ〜し、今度こそ、今度こそ絶対に失敗しないぞ。」
と口で言いながら体は今にもパラパラを踊りだしそうなほどウズウズしているその様は、どう見ても地だとしか思えない。
「ちょっと、何をぼさっとしてんだか。もうすぐなんだからしっかり気を張る。この作戦が成功するか否かはツェルのタイミングにかかってるんだから。」
「はいはい、了解です。」
まあ、この話に乗っている以上はルインの言うとおりである。ツェリライは意識を目の前の小型モニターに集中させる。
「ターゲット接近、残り50mです。」
「さぁ、来るぞ。」
ルインのウズウズが加速する。
「残り20m。」
「10m」
「5m」
そして、その瞬間は訪れた。
「発破。」
その声と共にツェリライはスイッチを押した。
ッヅバババババババン!!と喧しい音が庭先を中心として辺り一面に鳴り響く。と同時にすごい量の煙幕が巻き起こった。
「ぬわ〜〜〜〜〜〜!!?」
レックの悲鳴が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。目標はレックではない。
「チェーーーストーーーォォ!!」
雄叫びを上げながら二階から飛び降りるルイン。そして手に持った空砲バズーカを発射させた。
「これでどうだ!?」
とルインが早まった勝どきを上げる。そして煙幕が晴れた時には、予想通り倒れているレックを除いて誰もいなかった。
「何!?」
ルインは慌てて辺りを見回す。そして後ろを振り向くと、この作戦の目標であったフォートが何事もなかったかのように家に入ろうとしていた。
「・・・こんちくしょう。ツェル!どうだった!?」
ルインが二階の窓に呼びかける。ツェリライはその窓から顔を出して、腕でバツ印を作った。
「こんちくしょう〜〜〜〜。」
がっくりと膝をつくルイン。失意のまま家の中に入った。

「いやいやいやいや!ちょっと待ってよ!!何!?ボクはスルーされるの!?」
レックが飛び起き開口一番元気よくつっこむ。
「まあレックは今回の作戦に関してはどうでもよかったからね。別に怪我もしてないしもーまんたい?」
「いやいやいやいや。そういう問題じゃないよね?ていうか、なんでツェリライまで一緒になってこんなことしてるのさ?普通ツェリライもこっち側の立場だよね?ていうか、なんでこんなことしてるのさ?」
とりあえず言いたいことを簡潔にまとめてつっこんだレックに、敬意を評したのかどうかは知らないが、ルインも簡潔に答える。
「説明しよう!この作戦の目的とは、ずばりフォートを驚かせるためなのだ!ツェルが協力してくれているのも、その僕の意志に共感してくれたからである!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
会話が止まる。
「え?それだけ?」
「うん、それだけ。」
「それだけのためにわざわざ遠隔操作の爆竹やら蛇花火やら空砲バズーカを用意したわけ?」
「いぇす!」
「いぇす!って・・・」
もうつっこむ気力もないし、そもそもどこをつっこめばいいかわからなくなったレックは、とりあえず肩を落とした。
「まぁまぁ、これはあれだよ。しばらく気落ちしていたレックをバカ騒ぎで元気づけるといった目的も含まれている僕の粋なはからいでもあるんだからさ。ため息ばっかついてないで笑う。」
「それ、絶対今後付けしたはからいだよね?」
「こういうのは聞いた人の心の持ちようだから、そういうふうに思っとけばいいの。さ、とりあえず家入って体の煤落としたら?」
「やれやれ。」
レックはまたため息をついた。ここに住み込んでから今日まで、一体何回ため息をついただろう。一日最低一回はため息ついている気がするから、もうすでに三桁に突入していることになる。
ただ、一般的に言われている「人はため息をつくと幸せが逃げていく」という言い伝えは嘘なんじゃないかと思えるようになったことは、いい兆しなのかもしれない。

「それで?なんでまたフォートを驚かせようなんてことを考え始めたのさ?」
風呂に入って小ざっぱりしたレックが問いただす。
「いや、前にフォートと戦った時も言ったけどさ、フォートってびっくりするほど無反応じゃん?」
その発言には概ね同意する。確かに、ツェリライの技を受けても倒れこむだけでうめき声一つ上げなかったし、敗北後本来なら殺されても仕方がない状況でも、ほんの少しもおびえているように見えなかった。
その後の生活を見る限りも、それが装ったものではないことは分かっている。
「だから、いろいろ画策して驚かせてみようと思ったわけ。」
「なるほど。わかりたくないけど、まあ理解できたよ。それで、ツェリライまで協力したのはなんで?」
今度は向こうでパソコン画面に向かっているツェリライに尋ねる。
「僕も興味があるからですね。興味といっても、ルインさんのように驚いた時のリアクションではなく、彼が本当にどのような状況でも驚かないのかという方ですが。」
「どういうこと?」
いまいち言っている意味がわからない。
「本来、驚きや恐怖などは人がこの世界に誕生して後、自分の身を守るための生存本能として身に付いたものです。それがないということは、フォートさんは己が恐怖としている対象がない、という考えができるんです。」
「つまり?」
「フォートさんは他人の死はおろか、自分の死すら今その場で起こった一つの事象としか見ない可能性があるということです。まるで、葉から雫が滴るのを眺めることと同じようにね。」


ツェリライの言うことはほぼすべて間違いないと、二階から三人の会話が聞こえていたフォートは思う。
いつからだっただろうか。自らの感情がなくなったのは。それは多分、物心がついたときから自分の記憶が残っている限りでは自分自身がはっきりと感情をあらわにしたことはない。
目が覚めた時には、薄暗い路地でうずくまっていた。それ以前のことは覚えていないから、自分の両親がどんな人物だったか、どんな顔をしていたのか、なぜ自分は両親といないのか、捨てられたのか、それとも何かほかの理由があったのか、今となってはどれもわからない。
ただわかっていることは、あのままあの場所でうずくまっていたら自分は餓死していたこと、そうなることを防いだのは、あの方が自分の目の前に現れ、食べ物を差し出してくれたから。
作品名:ACT ARME 8 殺人機 作家名:平内 丈