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春咲シーナ
春咲シーナ
novelistID. 47967
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九尾の狐の夏花火

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序章
「あー、朝かぁ…。」
 翡翠はセミが鳴きだしている窓の外を寝たまま見つめた。
 昨年の秋、押し入れをぶち抜いて作ったベッドからは出窓の外が良く見える。
 青い空、白い雲、そして…我慢出来ない程の熱気。
「暑いいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」
 元々、押し入れだったベットルームは夏はとてつもなく熱気が籠るのだ。しかも、翡翠の部屋があるのは2階だ。今では古い瓦屋根から直に暑さが伝わってくる。
 家族からは「そんな場所を使わなくても…」と冷たい目で見られ、辞めた方が良い、と何度も云われるのを聞く翡翠の手には隣の家の仲のいい土方のおじさんから借りた15キロの重さはありそうなハンマーが握られていた。
 後には引けない翡翠…ではなく、辞めよう、だなんて全く思わなかった翡翠はアルバイトの終わった夜8時から工事…いや、むしろ破壊と言った方が近い行為を始めた。
 途中で水分補給を挟みながら3時間かかって作業は終わった。
もともと、体力だけは自信のある翡翠だったので厚い板をぶち抜くのは容易かった。ただ、釘などを抜き、トゲをやすりで丸くするのには時間はかかった。
そして、真夜中に自分のシングルベットをずるずると引き摺り、破壊の跡が生生しい場所に置いた。
そして、翌日、隣のおじさんにハンマーとやすりを返しに行くと昨晩の騒音についてこっ酷く叱られた。
まさか、押し入れをぶち抜くためにハンマーを借りたのだとは思わなかったらしい。
そりゃ、そうだよな、二十歳の女の子がハンマーを借りるんだったら日曜大工ぐらいだろうな、と翡翠は思った。
「あっつい、マジあっつい。死ぬこれ、死ぬ!」
翡翠は慌てて扇風機をつけた。暑さでぶわああ、と熱風が送られてきて舌打ちをした。
まるで、ドライヤーの代わりかと思うほどの熱風を出す機械と化した扇風機のスイッチを切り、階下へ急いで降りて行った。

「翡翠、今日バイトあるのか?」
「ねえよ、親父。毎日働かせんな。」
 エアコンの効いていたリビングのソファで求人雑誌を寝転びながら言う父親は只今、本人曰く、「長い夏休み中」である。
 世間ではこれを失業中という。
「今日なー、町内の夏祭りがあって、俺、頼まれてるんだけど忙しくてさー。代わりに翡翠、出てくれよ、力もあるし、弁当も出るから行ってきて。」
「やだよ、せっかくの休みなのに。ていうか、忙しいとか言い訳にも程があるだろ。仕事してない親父が行くべきだろ。」
「頼むから、行ってきてくれ、今度なんか買ってやるから。」
「…。」
 翡翠はちょっと考えると、
「今度、ヴィヴィアンのバック買ってくれるならいいよ。」
「えー、高いじゃん、ヴィヴィアン…。」
 まだぶつぶつ呟いている父親を残し、翡翠は手早くシャワーを浴び、耳の横でカールした綺麗な黒髪をを簡単に洗った。
「ふー…。」
 さっぱりとした気持ちで出ると、髪を乾かし、ジムでの筋トレの成果の割れた腹筋を撫でた。
 翡翠がジムに通い始めて2年になる。最初は高校での運動部の延長線のつもりで入ったのだが、今までよりも涼しいところで筋トレが出来る楽しさにハマってしまったのだ。
 特に好きなのが腹筋で、腹筋のマシンだけやって帰ってくることもある。本当は、今日も行こうと思っていたのだが、夏祭りの手伝いという急用が入ってしまった。
 しかし、ヴィヴィアンのバックがもらえるとなるならやる気も出る。どうせなら新作が欲しい。
人生なんでも等価交換なのだ。
ヒョウ柄の細めのタンクトップを着て、黒いダメージジーンズを履くと、いつも通り、真っ黒なメイクをして脱衣所を出て、またリビングへ戻った。
「翡翠、朝ごはん食べなさいね。」
「はーい。」
 サンドイッチと紅茶と切られたメロンをテーブルに並べながら母親がエプロンを畳んでいた。
「今日夏祭りの手伝い行かなきゃいけないから、晩飯いらない。」
「判っているわよ。焼きそばとかもらえるんじゃない?でも、これを忘れないようにね。」
 渡されたのは、タオルと凍ったスポーツドリンクだった。
「熱中症に気を付けること。あと、無理しないようにね。」
「うん。」
 翡翠は、もぐもぐとサンドイッチを咀嚼しながら答えた。
「ありがとう、お母さん。」
「なによ、急に。気味が悪いわ。」
 クスクスと笑う母親の長い茶髪には少し白髪が混じっていた。
 ちなみに、「ありがとう、お母さん。」と言った時に父親が「俺にはー?」とさっきと変わらない体勢で言っていたが、無視した。身の程をわきまえろ。
「メロン美味しい。」
早食いの翡翠はデザートのメロンに齧り付いて言った。
「これね、昨日引っ越してきたご近所さんが持ってきてくれたのよ。どこのメロンかしらね。」
「ふうん。」
 翡翠はメロンの果汁で濡れた唇を手で拭うと、勢いよく立ちあがった。
「行ってきます!」
作品名:九尾の狐の夏花火 作家名:春咲シーナ