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八峰零時のハジマリ物語 【第一章 004】

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  【004】


「!……い……お……時!」

「…………」

「お……零…………時!」

「…………?」

「……お…………零……時! おい! 零時! 聞こえるか? 零時! わたしだ! お父さんだ!」
「零時! お母さんよ!」
「お兄ちゃん! 起きてよー、お兄ちゃん! バカァ!」
「零時! 零時ー!」
「零時くん! 目を……目を覚ましてー!」

「う……うう……」

「「「「「零時!」」」」」

 気がつくと、俺はベッドの上で寝ており、周囲には両親と妹、そして高志と遊馬が、目に涙を溜め、笑顔が混じった表情で、俺に声をかけていた。
 ああ、そうか……俺は昨日『通り魔』に襲われたんだっけ。
『通り魔』に襲われてた女子学生をみつけて……そしたら『通り魔』が俺に向かってきて……そして…………あれ? 記憶が……ない。
 どこかに頭を強く打って記憶が飛んだのだろうか?
 確かにビルの壁に身体を吹っ飛ばされたことは何となく覚えているけど、でも、身体を叩きつけられただけで、別に頭を打った覚えはない……実際、今、頭が痛いわけでもないし。
 じゃあ、何で記憶が無いんだ?

《それはね、君が一度『死んだ』からだよ》

「!?……だ、誰だ!」

 突然、頭の中に『声』……のようなものが響いた。

 俺は、それに対して驚きのあまり、声を上げつつ、いきおいよく身体を起こした。
 そのおかげで、高志と思いっきりおでこをぶつけた。
「い、いってえな~、急に起き上がんじゃね~よ! 俺だよ、俺、高志だよ!『誰だ』って……そりゃねえだろ、この零時、この野……郎……」
 そう言いつつも、真っ赤に腫れた目で高志は、俺に満面の笑みを浮かべ、少し言葉を詰まりつつ、毒突いた。
 その後、高志を強引に横へ退かして、遊馬と妹の沙希が飛びついてきた。
 母は、ホッとして緊張が途切れたのか、父に身体を寄せて声に出さず泣いていた。
 父は、そんな母の肩を抱きつつ、窓の外に顔を向けて震えていた……たぶん、涙を堪えていたのだろう。

 何だか知らないが、そうとう心配させたことは確かなようだ。

 それにしても……さっきの『声』は何だったのだろう?

 あと、あの常識外れの身体能力をした『通り魔』は?

 そして、その『通り魔』に襲われていた『女子生徒』は?

 とりあえず、そんな『いくつもの謎』が残ってはいたが、麻酔薬を打たれたのか、もの凄い睡魔が襲ってきたので、俺はまた眠りについた。


《おーい……零時くーん、おーい》
「……んん?」
《おーい、零時くーん。起きなさ~い》
「!?……その声は」

 俺は飛び起きた。

 すると俺の横には「男」が立っていた。
――すごく軽薄そうな顔をして。

《あ、やっと起きた。はじめまして、零時くん》
「男」は、第一印象どおり「軽そうな口調」で挨拶をした。
「はあ……どうも」
「男」は俺のことを知っているようだが、俺はその「男」のことを知らない。
 最初、あの『通り魔』……『フード野郎』かと思ったが、どうもそうではないようだった……まあ、俺のカンでしかないが。でも、少なくとも『フード野郎』とは「根本的に何かが違う」、そんな感じなヤツだった。
《ところで零時くんさ、今、どういう状況かわかる?》
「?」
《そっかーそうだよね。じゃあ……周りを見てごらん?》
「まわ……り?」
 そう言われた俺は、周りを見回して見た。
 すると、俺と「男」以外には何も無かった。
 いや……「何も無い」ではなく、「灰色」しかない世界で、俺と「男」の二人だけがそこに存在している……そんな感じだった。

「な、なんだ、ここは?」
《ここはね~、君の『潜在意識の中』だよ?》
「せ、潜在意識~?」
《そう、『潜在意識』。君の表の部分。つまり『顕在意識』の部分は今……『おねむタイム』で~す!》
 と「男」はさっきよりもさらに軽い口調でそう言い放った。
 気がつくと俺は握りこぶしで「男」の顔を殴っていた。
《な、何をするんだ、君~》
「いや、何か軽い言い方されたんで、つい、腹立って……」
《や、野蛮だよ、暴力なんて! 君は動物か!》
「男」はそういって殴られた頬をスリスリしながら涙まじりで訴えた。
「わ、悪かったよ……つい、カッとなっちゃっ……」
《うそだよ~ん。全然、痛くないよ~ん》
 と、顔をニヤけて、被せ気味に俺にそう嘯いた。
「こっ……この野郎!」
 そんな「軽薄男(軽薄男に決定)」の顔面を俺はもう一発殴ろうとした。
「!?」
 瞬間。「軽薄男」は俺の視界から消えていた。
「消えた!」と思った瞬間、「軽薄男」は、いつの間にか、俺の後ろに立ち、耳元で呟いた。
「どうだい? この『身体(しんたい)の動き』……身に覚えが、な・い・か・い?」
「!?」
 そう、コイツの今の『身体(しんたい)の動き』には身に覚えがあった。
 これは、まさに、あの『通り魔』に襲われたときと「ほとんど同じ動き」だったから。
「ま、まさか……お前があの『通り魔』なのか?」
《ふふん、さあ、どうだろうね~、どう思う?》
「知るか。回りくどい言い方しやがって……違うのか、違わないのか、どっちなんだよ!」
《ふふん。答えは……ブブ~、外れ。ワタシはあの『通り魔』とは違うよ》
 そう言うのと同時に「男」は、今度は俺の「左端」に現れ、俺の肩に手をかけていた。
 俺は「男」の手を肩から振り払い、
「じゃあ、お前は一体何者なんだよ? この状況は一体何なんだ? あの『通り魔』を知ってるのか? 襲われていた女性はどうなったんだよ?」
 と、一気に質問を捲くし立てた。
《ワタシの名は『天界の救世主(メシア) シッダールタ』、君は『一度死んでワタシと"契約"を交わしたことでこの状況が生まれた』、あの『通り魔』の正体は、君が、あの時現場で『通り魔』になる前の人間から聞いたとおり、『悪魔』という存在……『魔界の者』だ。そして、『通り魔』……『悪魔』に襲われていた女性は、私が助け、その時の記憶を消し、別の病院に置いてきた。この一件に関わらないようにするためにね、以上》
 と、シッダールタは俺の質問すべてを『即答』で捲くし立てた。
「け……契約?」
《そう……零時くん。君はワタシと『契約』を結んだんだよ。だからワタシが君の潜在意識内にこうやって存在しているわけなの》
「そ、それは……どんな契約……なんだ?」
《それはね――》
 次に口にするシッダールタの口許が、少し笑みを含んでいるように見えた。
《君は、期限付きの命となり、かつ、その残りの命を尽くしてワタシに協力する、という契約だ》
「…………へっ?」

 俺には、「軽薄男」「天界の救世主(メシア)」の言っていることが、まるで、さっぱり、理解できなかった。