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君の声

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聞こえる?
僕の声。
聞こえてるんでしょ?
聞こえてるくせに。
無視してるの?

僕は、君達の声が好きで、好きで、好きで、好きでたまらなかった。

このお話の主人公は少し変わり者である。
    はらの いつき
名前・原野 樹季
年齢・24歳
誕生日・11月1日
身長・168cm
体重・55kg
血液型・A型
出生地・京都府
 といったところで、大体は普通だ。職業は、声優だが特に珍しいというわけではない。しかし、一つだけ変わったところがある。まだ紹介していない項目があるだろう。樹季の性別が、まだ不明だ。
 そう。樹季の変わったところ。
 性別が不明なところ。
 樹季自身は自分の性別は分かっているのだが、ある事情があって公表していない。樹季の職業は声優だが、事務所の社長でさえあやふやだという。もちろん事務所の社員は誰も知らない。性別なんてすぐばれると思うが、樹季は最低限の人間としか関わらないという生き方をしてきた。学校・事務所では、ダントツで成績トップであったから何も文句は言われず、むしろ秘密にしておいたほうが面白味があるという事で完璧に性別は伏せられた。
 そんなこんなで、樹季が声優界に入ってからもう2年目に入る。

 春。

 今シーズンに始まるアニメのオーディションが始まる。
「次、原野樹季さん。どうぞ。」
「はい。」
 デビュー当初からの樹季の人気上昇傾向は変わらず、先輩からも注目を浴びている。
 今回のアニメの主役のオーディションを受けるのだが、一人二役をやるという。しかも、片方はBLでもう片方は変装ツンデレ美女という難題でオーディションを受けに来てる声優たちも注目を浴びている面々だ。
「では、さきほど受け声攻め声出してもらったんで、ツンデレの方お願いします。」
「はい。」
「課題ですが、『別にあなたの事を気にしたのではないです』で、3、2、1、はい。」
「べつに・・・あなたのことをぉ・・気にしたわけじゃないっ・・・からねっ!」
「はい、ありがとうございました!」
 樹季は性別に関係なくさまざまな声を出すことができる。以前はメイド服の女の子だったし、その前はイケメン執事の役だってこなしていた。
 人付き合いがなく、淡々と良い仕事をこなす樹季が人から恨まれない訳は無かった。ただし、皆は樹季の実力に気圧され誰もが心のうちに殺していた。
 樹季自身、ライバルがいないことにいい加減飽きていた。
 しかしある日、唐突に現れたライバルがあった。
「樹季さんは相変わらずお上手ですね。」
「お前・・・。」                               ゆうき たくや
 声をかけてきたのは、樹季の同期で同じ事務所の悠木拓矢だった。年齢は同じで、実力もあり、先輩との交友関係も良かった。そのためか、友人がいない樹季には悲しそうな目で接する。彼の方は、親切で行動しているのかもしれないが、樹季にとっては鬱陶しくてしょうがなかった。
「なんだ、負け惜しみか。いい加減、僕から離れたほうがいいぞ。」
「なんでお前はそんな実力があるのに人柄だけは悪いんだ…。」
「僕には最低限の人付き合いで十分だ。それに、実力じゃなく生まれ持った才能だ・・・。じゃーな。」
 樹季は鬱陶しい拓矢を後にオーディション会場を後にした。
「おい!待てよ――――」
「次、悠木拓矢くんお願いします。」
「っ・・・はい・・・。」

 樹季は、マネージャーを会場においてきたことを思い出して戻ろうと思ったが・・・。
「うっ。拓矢に会ったら・・・。」
 この日、樹季は仕事がなかったので家に帰った。

 次の日、マネージャーからオーディションの結果を聞いた。主役はもちろん樹季だった。しかし、BLの相手が拓矢になったということで、マネージャーの佐藤は携帯から伝わる殺気に冷や汗をかいた。
 アフレコは明後日からで、それまでは違うアニメとテレビのナレーションの仕事がみっちり入っていた。そのおかげで新アニメの制作には集中できるだろうと樹季は思っていた。

 今回のアニメは「俺は俺」という題名で簡単に説明すると、探偵主人公ヒロが数えきれないほどの変装で、様々な事件を解決するというものである。拓矢が演じるユウスケは、ヒロが女装しているものと知らずヒロに恋をしたという役だ。ほかにも、樹季の先輩でヒロイン役の神楽セナや、拓矢の先輩で探偵補佐役の橋本浩太など豪華な声優陣だ。
 初日は自己紹介から始まった。
「みなさんこんにちは。監督の島田です。よろしくお願いします。いやぁ~、今回は注目を浴びている新人さんや波
に乗っている人気声優さんがたくさんいてうれしいですね。」
                                  :
                                  :
「今回主演ヒロを務めさせていただきます、原野樹季です。よろしくお願いします。」
「ユウスケをやらせてもらいます、悠木拓矢です。よろしくお願いします。」
「どぉ~も!みんな空気が重いなぁ。久しぶりのヒロインやらせてもらいます、神楽セナですっ!よろしくね!」
「はい。橋本浩太です。後輩二人のBLの声が聞けるなんて・・・はぁはぁ・・・。役をもらえたことよりうれしい・・・。」
 セナと浩太は先月の人気声優ランキングトップ10にランクインするほどの人気ぶりで、浩太は俳優としての活動もしている。声優界では、俳優や女優、歌手活動をするのは珍しくない。実際、樹季も歌手活動は行っていた。
 自己紹介が終わると、早速アフレコに入った。
                                 *
                                 *
 一日目が終わり、決起集会兼第一話打ち上げのようなものが街の居酒屋で開かれた。
「みなさ~ん。おつかれさまでした。今日はごくごく飲んじゃってくださ~い。」
「うぇ~い!」
 声優界は割かし気さくな人物が多い。そのせいか、飲み会となると大いに盛り上がってしまうのだ。中には酔ってしまうと収集をつけられなくなるのもいる。そんなこんなで飲み始めた声優やスタッフたちだが、この時、浩太が面白いことを思いついたらしい・・・。
「なあなあ、拓矢。」
「なんですか先輩。まさかもう酔ったとか言わないで下さいよ。困ります。」
「そうじゃなくて・・・。」
「じゃあ、なんです?」
「樹季の事なんだけど・・・。」
「樹季がどうかしましたか?」
「シッ!声がでかい。あいつの性別知りたくはないか?」
「まあまあ・・・。知りたいっすね。」
「だから・・・今日はあいつにガンガン飲ませて酔わせて性別聞き出そうっていう作戦だ。」
「くだらないですけど・・・。まあ、協力しましょう。」
 浩太は拓矢とともに樹季の性別を聞き出そうという作戦に乗り出したのだった。しかし、酒を飲ませる前に樹季は既にウイスキーに手を出していた。
「先輩・・・。あいつ酒に強すぎません?」
「ああ・・・。あれは、声優界でもぶっちぎりだな。澤村君より強いな・・・。」
 澤村とは、声優界でも有名な飲んだくれで二日酔いがひどく、仕事が成り立たなかったという伝説もある。
作品名:君の声 作家名:紅 若菜