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ひづきまよ
ひづきまよ
novelistID. 47429
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サキコとおっさんの話

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場所はとあるコンビニのタバコの自販機の前。

 土日を除く五日間、夕方位に決まって同じ男女の二人組がそこに居た。恋人同士にしては年が離れているし、どういった関係なのかもよく分からない。だがほぼ毎日、そこに居た。
 男はスーツ姿、体格は大柄で顔は一見好青年に見えなくもないが、至って普通。
 女は制服姿でピアスじゃらじゃら。ぱっと見ても派手な印象。幼そうな顔を化粧でがっつりと決めていた。
 この謎の組み合わせはほぼ毎日、このタバコの自販機の前にいる。
 晴れようが雨が降ろうが、決められたように。

 さすがに毎日居るのでお互い気になっていたようで、初めて口を開いたのは男の方から。
「なあ」
「あ?」
 時刻は夕方を超えている。女はいつものように自販機の横にある青いベンチに腰かけ、新機種のスマホをボチボチしつつ返事をした。所々で聞こえてくる音は、どうやらそのスマホからのようだ。
 あ?じゃねえよと思いながら、男はタバコの煙を吐く。
 最近の子はまともに返事も出来ないのかと呆れるが、そう思う自分の年齢をひしひしと実感しそうになった。現実に向き合いたくなくて、考えるのをやめた。
「お前毎日ここに居るけど、帰んねーの?」
「そのうち帰る」
 彼女はそう答えながら画面から目を離さなかった。稀に寄ってくるタバコの煙にしかめっ面を見せながら。しばらくすると、女が突如「あー!!」と叫び腰かけていたベンチから少し腰を浮かせた。いきなり叫び出すので男はびっくりする。
「何だよ!!うるせーな!」
「煙たいからゲームオーバーしたじゃん!もー!おっさん煙いんだよ!!」
 どうやら携帯のアプリゲームをやっていたらしい。
 煙いとか言われても、ここは喫煙できる場所なのだが。
 女は「もーやんない!」と怒りながら再び腰をかける。どうせしばらくしたらまたやるくせに・・・と思うが、言うのも野暮だ。
「親心配すんだろ」
「一回帰ったし」
「ケンカしたのか?」
 煙を吐きながら男は小さくなったタバコを吸い殻入れに放った。
「別に。出ていけって言われたから出てきただけ」
 何だ、複雑な家庭なのか・・・と男は勝手に色々想像した。母親が愛人連れてきたとか父親が暴力振るうとか・・・家庭が冷え切っているのかと。そんな想像をしていると、不意に女は男から顔を背けぼそっと呟く。
 悪い事を聞いてしまったなと気まずい気持ちになった男は、その言葉に思考を止めた。
「赤飯に枝豆とかありえなくね?」
 ・・・は?
 何言ってんだこの女。
「色合い的におかしくね?炊きあがったグリンピースとかめっちゃ小さくなってるし、それ言ったらキレられてさぁ、だったら食うなって言ってくるし!マジねえわ!」
「それで出てきたのか?」
「は?重要だろ!?黒豆のイメージなんだけど!」
 男は溜息をついて再びタバコに火をつける。風向きによって女の方に向いてくるので「煙いっつってんだろ!」と怒鳴った。
「食わせて貰ってるくせに文句言うなよ」
「あたしが作るっつったら拒否られんだよ!こないだのカレーなんか鶏肉牛肉豚肉三種類ぶっ混んできたんだぞ!うちの母さん、何でも混ぜればいいと思ってるからさぁ!」
 贅沢なカレーだなとつい笑ってしまった。
 言うだけ言ったらすっきりしたのか、彼女は不意に「腹減った」と呟く。
「だから家帰って食えよ」
「食うなって言われたしーあー腹減ったわー死ぬわー」
 そう言いながら手を男に差し出した。不審そうに彼は「何」と問う。彼女は満面の笑みで、「五百円!おごって!」と図々しい事を言いだした。
「たかる気か?」
「おっさんのぉ、そのタバコ代ちょっと我慢すれば可哀想な女子高生救えるんだよぉ」
 にこにこしながら夕飯をねだる。話しかけるんじゃなかったと後悔しながらも、彼はボロい財布から千円抜き取って渡した。受け取るなり、可愛らしく「やったー!」と喜ぶ。
「ゴチなりまーす♪」
「五百円だからな!釣り持ってこいよ!」
 黙って赤飯食っていればいいのにと思いつつ。しばらくして、浮き足立ちながら女はおにぎりと菓子パン、お茶を買って戻ってきた。男は手を出して「釣り!」と要求する。
 明らかに五百円オーバーしていた。
「図太いな」
「選んでたら超えてただけですー」
 初めて会話したのにも関わらず、不思議な事に普通に会話していた。
 ベンチに腰をかけ、タダでありつけた食料を口にする女を見ながら、「食ったら帰れよ」と男は立ち去ろうとした。すると彼女は食べながら立ち上がる。
「おっさーん」
「?」
「明日もまたここに来るー?」
 口元にご飯粒をつけながら問う。
 滑稽さに男はふっと吹き出しながら、「毎日来てんだから分かんだろ」と返事をした。
「そっかー。ならまた会えるねー。あたしサキコ。お前って言われんのやだから名前言っておくね。おっさんはおっさんでいいよね」
 そりゃ本人からすればおっさんだろうけども・・・と男は不満そうだったが、若いエネルギーに立ち向かえる気力もない。敢えて反論するのをやめておいた。
 ・・・時計は既に二十時になろうとしていた。