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ポケットの中から・・・

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家に帰るのが憂鬱だ。何故かというと,朝弟と喧嘩をしたからである。弟は小学生だからもうすでに家にいるだろう。友達はみんなゲーセンへ行ってしまった。俺は,一人ぼっちで帰路を行く。
 あ~あ,四次元ポケットがあったらな。いつもそんなことを考える。森の奥に,そうだな,山梨の方は静かでいいな。そんなところに別荘を立てて優雅に暮らすのにな。
玄関前に着くと,予想通り,中から弟のゲームキューブの音が聞こえてきた。俺は溜息混じりにそこに荷物をおろし,家には入らず公園へ向かった。
 暑さを忘れると,急に風が清々しく感じられた。俺は,左ポケットに手を突っ込んでみた。もちろんそこにお金が入っているわけがない。今月は,家の都合でお小遣いをもらっていなのだ。ベンチに腰を下ろした。公園の隣に建っているコンビニのアイスがやけに美味しそうに見えた。
 朝弟ともめたのは,家に一個しかないトランプセットの取り合いになったからだ。
「確率の授業で使うんだ。」と言っても,「休み時間に友達とやりたい。」との一点張りで,頼りない親に,「授業で使うんだって」と弁護されてやっと決着がついた。
 四人班で一個誰かが持ってくるということに対して,積極的に手を挙げて,ジャンケンでは負けたものの,どうしても持って行きたかったのである。
 風がやんで,暑さが蒸し返してきた。ベンチから立ち上がろうとしたとき,ポケットがジャラっとなった。左ポケットを探ると,100円玉が出てきた。「神のお達しだー」とふざけて言いながら,コンビニで噂のアイス,カリカリ君のコンポタ味を買った。それを食べていると,またポケットがジャラっと音を立てた。もしや! と期待しつつ左ポケットを探ると,10円玉が出てきた。俺はそれでうますぎ棒を買った。
 5時の時報がなった。おやつにもう満足しながらも,左ポケットを俺は探った。あれ? 俺ってこんなにケチな人間だっけ? 苦笑いしながらも,右ポケットにも手を入れてみた。その時,俺の手が何かに触った。それが,トランプセットであることに気づいたのは,取り出したあとのことだった。
 あいつ,一人でまだゲームキューブやってるのかな。俺は立ち上がった。そうだ,一緒にトランプをやろう。カリカリ君のコンポタ味が美味しかった話をしよう。そして俺は,雲一つ浮かんでいないオレンジの空に問いかけた。
 これでいいんだよね,と。
作品名:ポケットの中から・・・ 作家名:kuma