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即興小説あっぷあっぷ
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しめじちゃん

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あたしの体には、しめじが生えている。とてもかわいい。得体の知れないきのこが、気付くと部屋に生えていたなんて話を聞くけれど、あたしのばあいは良く見知ったきのこだったので、安心した。でも、きのこっていうのは、いわゆる菌らしい。何かで読んだ。だって、そんな事は知らなくてもいい知識なんじゃないだろうかって、あたしは思うんだ。だって、毒キノコと言う存在も、食べたらおいしいって言うキノコの存在も、そしてマツタケのような高級食材がそこから傑出してくることになるような、もろもろの都合は全部人間が作り出した論理で合って、きのこには関係ないって思うの。こうして、今あたしの体に生えてきたしめじは、味噌汁の具にしてやろうという気は起きない。なぜなら、あたしの体に生えてきたものだったら、それはきっとあたしなのだ。それも、あたし個人の勝手な都合によるものだけれど。でも、きのこが菌なのだとしたら、あたしの体はしめじにとって心地よい媒体であると言う事ではないのか。プライベートブランド、とか最近よく聞くじゃない、まさに「あたしブランドきのこ・しめじちゃん」っていうわけよ。これは最高だわ。とにかく、しめじはあたしの右腕に生えている。よく見える所に生えてくれてよかったと言うか、じゃあなぜ今まで気付かなかったのかという話だが、でも気付いてたら生えていたんだから仕方ない。あたしはずっと部屋から出ていないし、カーテンも閉め切ったまま、そこに窓があったかどうかすら、あたしの記憶の中では定かではないのだ。もしかしたら、カーテンにもしめじちゃん、その他のキノコブラザーズが生えているのかもしれない。キノコを食べて大きくなる、そんな兄弟は今は机の中にしまってある。久しぶりにやってみようかと思ったけど、机まで行くのが面倒臭い。私はずっとベッドに寝そべっている。パソコンやディスプレイは炬燵の上にあるので、机はもっと遠くなのだ。空気清浄器なんてものを起動してはいるが、あれってフィルターの掃除とかしなきゃいけなかったんじゃなかったっけ。最後にしたのは、いや、そもそもそんな事は一度もしていないから、あれはもはや空気清浄機などではなく、淀み濁ったこの部屋の空気を循環させているのみに従事する哀れな粗大ごみである。カーテンにも、菌が繁殖してきのこちゃんが生えていたら面白いのにな。そして、大量に増殖したきのこちゃんの自重によって、カーテンはカーテンレールから落下しあたしの部屋に数年ぶりに太陽の光が差し込むのだ。できれば、そうなってほしい。そうだ、カーテンにきのこが生えたら、いつか窓が拝めるかもしれない。そうなったら、外に出てみよう。あたしの腕のしめじちゃんは、それがいいよ、そうしなよ、とあたしに語りかけているように見えた。そうか、お前はあたしなんだった、そう思い込んでるだけかもしれないけど、あたしの心の声に、静かにうなずいてくれるしめじは、たしかにあたしなのだと、思ったら目の前がかすんできた。涙。触れずとも解る。目尻から滴ったその雫は、間違いなく涙だ。おかしいな、なに感傷に浸ってるんだろう。あたしのうでには、しめじが生えている。泣き顔を見られるのは恥ずかしいな、と思い、あたしは部屋を出て洗面所に向かった。