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ACT ARME 7 キレイゴト

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「いや、その必要はない。   今回お前たちに委託する内容は、テロ組織の壊滅だ。手段・相手の生死は問わない。」
「テロ組織・・・?」
この穏健な町には似合わない物騒な言葉が、室内を圧迫する。それに耐えかねたのか、ルインよりもレックが先に質問した。
「テロ組織って、一体何が目的でそんなことを・・・」
だが係長はその質問には答えず、その他の内容を話しだした。
「テロ組織が拠点に置いている場所は、ソンカン地区の廃工場。確認されている構成員は、二人だ。」
「二人?またそれはえらく少ないね。そんな組織と言えるかすら怪しい人数なら、治安部隊が一挙に押しかければ事足りるんじゃない?それをしないということは、できない理由が?」
その質問に、係長はしばし沈黙する。
「・・・奴らは、『プロメテウス』を所持している。」
「プロメテウス・・・    ってえええええ!!!?あのプロメテウス!?」
プロメテウス。人類に火を与えたとされる神の名を冠したそれは、焼土殲滅戦専用爆弾である。本来ならそれは、国が保有している軍のみ保有しており、またそれが使用されることはよほどのことがない限り起こりえない。
ボーリングの球ほどの大きさのそれは、起爆させると半径50キロにわたって爆炎を広げ、一瞬のうちに何一つ生命を残さない焼け野原へと変化させる。
「そう、そのプロメテウスだ。」
「どうやってそんな物騒なものを手に入れたんだか・・・。でも治安部隊が下手に動けない理由はわかった。
プロメテウスは、知ってる人は知っている超ド級の破壊兵器だ。治安部隊みたいな大きな組織が動くとなると、どうしても乗り込む前に相手に察知される。その時にプロメテウスの名前を出せば、思いっきり爆風の射程範囲内のこの町はほぼ間違いなく集団パニックが起こる。
さらに入手ルートは不明だけど、もしそれが国から盗まれていたとなると、話は国の責任問題まで発展する。そうなると当然国の統制が乱れ、国力が落ちる。そうなったら自分たちが主導権を握り、もしかするといるかもしれないお仲間引き連れて国を制圧、なんてこともできないことはないか。うん、確かにうかつに動けないね。
で?そんな大逸れたことをやらかそうとしているテロ組織の目的は?さっきレックが質問したのを華麗にスルーしたけど、あれ見る限り目的は判明しているんでしょ?」
係長は少し冷めたコーヒーをすすり、目を閉じた。
再び、あたりが沈黙で満たされる。
「奴らは、『国力低下抑止及び国家繁栄基本法』により、国から故郷を見捨てられた生き残りだ。」
『国力低下抑止及び国家繁栄基本法』という言葉が係長の口から出たその時、ガタン!と激しい音と共に椅子が倒れた。
その音を生み出した主は、机に両手をつき、そこに浮かべている表情こそ無表情だったが、その青ざめた顔からは全く平静を装えていないことは誰の目にも明らかだった。
「・・・レック。気分悪いなら席外しててもいいよ。」
ルインがコーヒーを飲みつつ、レックに退席を促す。
「いや、でも。きちんと最後まで聞かないと・・・」
と、レックはそのまま席にとどまり続けようとしたが、
「今のその状態じゃあろくに話なんて聞けないって。僕だって話を聞くぐらいはひとりでできるもん。という訳で、休んでおいで。」
と、ルインが最後まで押し切った。


「今の反応を見る限り、レックもそのテロリストと同じ過去を持っているっぽいね。係長さんが話すのをためらったのも、それが理由?」
レック退席後、ルインがボソッと問う。
「ああ、そうだ。入手したテロリストの顔写真から素性を追ったところ、あの少年の素性も割れてしまった。」
「テロリストの素性探ってたらレックの素性まで割れてしまいましたということか。それはつまり、そういうことなのかな?」
ルインの質問を、係長は沈黙することで返答に代えた。
「やれやれ、レックは係長さんと似て色々と気にするタイプだからなあ。最悪、ものすごく救われない泥沼エンドになる可能性もあるわけか。」
ルインはゆっくりと時間をかけて空気を吸い込み、そしてため息としてゆっくり吐き出した。
「『国力低下抑止及び国家繁栄基本法』ねぇ。国が定めたノルマである税を納めなかった町や村は、国からの交付金及びその他援助をすべて打ち切り、さらには他の町との関わりも一切断ち切られる。いわゆる切り捨て御免にする法律か。改めて口にするとびっくりするほど即物的(シビア)だよね。」
「このラトリアは、他の国と比べて面積が小さい。国の基盤を磐石にするには、安定した収入が必要だ。国の安定は、そのまま国民の生活にも跳ね返る。それを考えればやむを得ないと言わざるを得ないのかもしれないが・・・。」
係長が苦々しげに呟く。
基本、この国に存在するほぼ全ての町村は、国からの交付金と、町の間での物品交換、いわゆる貿易によって成り立っている。故にそれが打ち切られた町村に待ち受けるのは崩壊しかない。取り残された住民は、明日の衣食住にさえ困り果てることとなる。
もちろん新しい住居を求め移住する者もいるが、この国では身分証明のため、移住の際は元いた町を明らかにしなければならない。そして国に捨てられた町の出であることが知られるとそこに待つのは、他の住民から情け容赦なく向けられる差別の目線。それに耐えられず自殺を図る者も少なくない。
それでも、移住するだけの金を持っている者はまだ幸福なのかもしれない。荒廃した町に取り残された住民の大半は、そんな金など持っておらず、スラムと化した故郷で何もできず、朽ちていく選択しか許されなくなるのだから。
「実際この法律の餌食になった例を見ると、やりきれない思いが満たされるね。このテロの目的は、故郷を捨てた国に対する復讐か・・・。結果がどう転ぼうと、すっきりしそうにないね。」
「気が進まないのなら、無理強いはしない。この委託を受けるか否かは、お前の意思で決めてくれ。」
先程からため息をつきっぱなしのルインに、係長が助け舟を差し出す。
「いやぁ、せっかくこうしてわざわざ来て依頼してくれたわけだし、いつも係長さんには迷惑かけっぱなしだから、引き受けさせてもらうよ。レックについては、きっとなんとかなるよ。」
「そうか、引き受けてくれて感謝する。あと、俺に迷惑をかけているという自覚があるのなら、もう少し自重という言葉を学べ。」
「それは無理な相談だね。僕もそうだし、僕以外にも脳内辞書から自重なんて言葉がすっぽ抜けてるのがいるし。」
「ふん。否定できないところが悔しいな。それでは、今回の件は確かに委託した。よろしく頼む。」
「はいよ。確かに承りました。それじゃ、お疲れさんと。」
係長が退出後、ルインは冷め切ったコーヒーを飲み干し、携帯を取り出した。


「というわけで、今回は非常〜にヘヴィなお仕事を依頼されました。」
数分後、ルイン宅にそろった一同が話を聞くと、場の空気は重くなった。特にアコとハルカの両名は
「この国には、そんな法があるんですね・・・。」
「何よそれ。それってつまり自業自得じゃない。」
と消沈&ご立腹のようだ。
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈