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風のごとく駆け抜けて

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スタート前に麻子と朋恵に向かって、スタンドから精一杯の声で声援を送る。
選手紹介が始まり、呼ばれた選手が一礼して行く姿がオーロラビジョンに映し出されて行く。

清水千鶴、山崎藍子、貴島由香、そして麻子に朋恵。各選手を見るが、意外にもみんな平然としており、あまり緊張は見られなかった。

スタートすると同時に先頭に出たのは、なんと麻子だった。
その後ろへ山崎藍子と貴島由香が付き、清水千鶴は7番目あたり。朋恵は自己申告通り最下位を走っている。

先頭と最下位を桂水高校が走ると言う、なんとも奇妙な光景だ。

「湯川さんが先頭に出たのって、アリス的には予選で我慢していたストレスなんじゃないかと思うんですけど」
「いや、ブレロ。そこは体力が温存出来たからと言うべきだろう」
永野先生はフォローを入れるが、正直私はアリスの意見に賛成だった。

先頭を引っ張る麻子は快調にレースを進めて行く。

ただ、不気味なのは300mを過ぎても清水千鶴がずっと6、7番目辺りを走っていることだった。

一昨日出会った時は、気が抜けたとか言っていたか……。
まさかやる気がないと言うことなのか。

「やっほーさわのん」
突然、後ろから名前を呼ばれる。
なんと、私達が座っている一段上の通路にえいりんがいた。

「どうしたの? 城華大付属にいなくて良いの?」
「今1500mの付き添いをやって帰る所。ほら、城華大付属は100mのスタート辺りでしょ。帰り道の途中で、偶然さわのんを見つけたのよ」
えいりんは通路の手すりに上半身をのせ、私の方へと体を乗り出す。

「どうなの。麻子ちゃん調子いいの? てか、紗耶ちゃんの走りも昨日見たけど、本当にみんな速いんだね」
えいりんはまるで自分のことのように嬉しそうに話す。

「随分と余裕だな市島」
「あ、どうも初めまして。阿部監督から話は伺っております。えっと永野綾子さんですよね」

えいりんは乗り出していた身体を起こし、永野先生に向かって礼儀正しく一礼をする。

「何をどう聞いてるか気になるが……。それより市島。お前が城華大付属に転校した理由って、本当に澤野と勝負したいからなのか」

自分のことについて知っているのが意外だったのだろうか。
えいりんは、一瞬きょとんとする。

が、すぐにいつもの顔に戻り、返事を返す。

「はい。本当にそれだけですよ」
「よく、鍾愛女子が転校を許可してくれたな」
「別に珍しいことじゃないと思いますよ」
「いや、十分に珍しいだろう」
永野先生の一言に話がかみ合ていないと思ったのか、えいりんが手を横に降って違いますよとジェスチャーする。

「転校がって意味じゃ無くて、レギュラークラスの人間が戦線離脱してしまったり、退部したりすることがってことです」

永野先生も過去に思い当たることがあったのだろうか。
「ああ」と妙に納得をしていた。

「それにしても、これは藍子負けるな」
「え、どう言うこと?」
私はえいりんに尋ねる。
レースは麻子を先頭のまま、600mを通過していた。

「予選の時に桂ちゃんに聞いたけど、今6番目を走ってる人が、昨年さわのんと競り合って4分19秒出したんでしょ?」
私は「そうだけど」と頷く。

「そんな人がなんであの位置でレースをしてると思う? てか、さわのん逆に考えてよ。さわのんがあの位置にいる時ってどんな時? っておしゃべりが過ぎた。戻らないと怒られる。じゃぁね。晴美ちゃんも元気そうでなにより」

話の途中で質問を丸投げしたまま、えいりんは戻って行ってしまった。

「言われてみればそうだな。よかったな澤野。随分と認められているじゃないか」
永野先生は意味が分かったらしく、私に笑顔で微笑むが、私はさっぱり意味が分からなかった。

紘子やアリス、梓などを見ても同じように意味が分からなかったらしく、みんな授業中に当てられて欲しくない時のように、微妙に視線を逸らしている。

「まぁ、分かりやすくレースで説明してやるとだな……」
そんな私達を見て、ため息をついた後で永野先生が解説を始める。

「なぜ昨年優勝した清水千鶴が今6番手を走っているのか? 昨年は澤野と競り合いを演じていたのに。答えは簡単だな。澤野以外のやつになら楽勝で勝てると思っているからだ。自分で残りいくらいになったら動くと決めてるのか。それともレースが動いたら対応する気なのかは知らないが……。あれはかなり余裕の走りだな」

永野先生の説明を聞いて、注意深く清水千鶴の走りを見る。

確かに前を行く麻子や藍子達に比べて、走りに随分と余裕があるようにも見える。

先頭集団が1000mを通過した所でレースが動いた。
貴島由香が、麻子の前へと出る。

だが、先頭を走れたのもわずかに30m。

その貴島由香を抜かしてついに藍子が前へと出た。
その後ろでは麻子が貴島由香の横に並び、競り合いを演じ始める。