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風のごとく駆け抜けて

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1月は行く、2月は逃げる、3月は去るとはよく言ったもので、今年度もあっと言う間に過ぎて行く感じがした。

日が経てば経つほど、アリスは部活に溶け込んで行き、気付けばすっかり駅伝部の一員になっていた。

でもそれとは逆に、日が経てば経つほど、無くなっていくものもある。

葵先輩と一緒にいれる時間だ。

あっと言う間に過ぎて行くこの季節。で
も今年だけは、過ぎて欲しくないと切実に願ていた。

それでも、日々は過ぎるし、別れもやって来る。

気付けば3月も20日を過ぎ、葵先輩にとって最後の部活の日がやって来た。

「さて、シューズも取ったし、置いていた小物も全部袋にまとめた。これで忘れ物はないわね」
部室の中を見渡しながら葵先輩が頷く。

「私……。葵先輩と会えるのが今日で最後なんて信じられません」
「ちょっと朋恵? 一生の別れみたいに言わないでよ。うちは確かに、部活は最後かも知れないけど、長い人生、会うことはきっと何度もあるわよ」
寂しがる朋恵に葵先輩は笑って答える。

「でもぉ……。部活であおちゃん先輩の顔が見れなくなるのは寂しいですよぉ」
紗耶の一言に誰もが頷く。

そうなのだ。
確かに、これからの人生で何度か会うこともきっとあるだろう。
でも、根本的に今まで毎日会っていた部活で会えなくなるのだ。

「あぁ。その件に関しては多分大丈夫じゃない? きっと、顔が見れなくて寂しい思いをすることは無いと思うけど」
笑う葵先輩に私達はみな首を傾げる。

どう言うことか理由を聞こうとしたところで、永野先生が部室に入って来たため、聞くタイミングを逃してしまう。

「なんだ? 大和もう帰るのか?」
「いえいえ。まだですよ。ただ荷物をまとめただけです」
「そうか。だったらこれも一緒に持って帰れ。私からの卒業祝いだ」

永野先生は小さな袋を葵先輩に渡す。
葵先輩は不思議そうに袋を眺め、封を開く。

そこから出て来たのは、一本のタスキだった。
しかもつい数ヶ月前、私達が繋いだ桂水高校のタスキだ。

「え? あの……。これって来年も使いますよね?」
「来年は来年でまた準備するさ。それは大和が持っておけ」
永野先生に言われるも、葵先輩は不思議そうな顔をしする。

「まぁ、今年は都大路に行けなかったから、悔しい思い出かもしれないがな。でも、うちの部が城華大付属をあそこまで追い詰め、あんなにも戦えたのは……。大和、お前がずっと部をまとめて引っ張って来てくれたからだ。本当にお前には感謝してる。ありがとう。だからその象徴であるタスキは大和が持っていてくれ。来年はお前に良い報告が出来るよう、我々も頑張るよ」

「綾子先生……。こちらこそ、ありがとうございました。走ることが好きだっただけのうちが、駅伝で都大路を賭けて戦うくらいにまで成長出来たのは、綾子先生がいたからです。こんな素晴らしい仲間と走れたことは、うちの一生の思い出です」

一礼する葵先輩は涙が溢れだしていた。
私達も思わずもらい泣きをしてしまう。

葵先輩を涙と笑顔で送りだし、10日経つと、私達はいよいよ3年生へと進級した。