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風のごとく駆け抜けて

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私は必死にえいりんを眼で追う。
彼女はスタートして100mの地点で前から6番目にいた。

全体が集団となってレースが進む。
けっしてペースは速く無いようだ。
中学生の時ならえいりんはきっと前に出ていただろう。

いつも彼女は自分のペースでレースを進めたがっていた。
それが今回は決して前に出ようとはしない。

トラックを1周しても集団はばらけること無く一塊のままだった。
タイムもお世辞にも速いとは言えない。
これだったら私が県中学ランキング1位を出した時のラップの方がよっぽど速い。

ちなみにその時は私とえいりん、それからもう1人を加えた私達の学年トップ3がスタートと同時に激しい競り合いをしていた。

1周目のラップを確認して遅いと感じたのか、3番手辺りにいた選手が先頭に出て集団を引っ張りだす。

ペースが上がったのだろう。
若干縦長になり始めたが、まだ一つの集団と言った感じだ。

それからトラックをもう1周する間に先頭が二度入れ替わった。
何人かが遅れ始め、先頭集団は7人となる。

ちなみにえいりんはその集団の6番目。
つまりは先頭集団の後ろから2番目だ。  

えいりんが私のいる場所の前を通るのもこれで3回目。
もう50m走れば、ラスト1周。

これはラスト200mぐらいからスパート合戦になるのだろうか。

食い入るようにレースを見つめながら先の展開を予想していると、ラスト1周を告げる鐘がなる。

そして、その瞬間、早くも私の予想が外れたことを確信した。

6番手につけていたえいりんが、鐘が鳴ると同時に一気にペースを上げる。

そのあまりのスピードに、他の選手は誰ひとりついていけなかった。
前の選手をどんどん抜いて行き、あっと言う間に先頭へ躍り出た。

ラスト200mの地点で2位と30m近くも差を広げる。
ホームストレートに入った時には、すでにえいりんの優勝は決まったも同然だった。

あまりにすごいスパートに、観客席が歓声で騒めいている。

えいりんは最後の直線に入ると、腕を必死で振り、地面を思いっ切り蹴るような感じで脚を動かしながら、スピードを上げる。

さすがにきついのだろう。やや顔をしかめながらも懸命に走る。
その息遣いがスタンドまで聞こえてきそうな感じがした。

それでも最後まで決してスピードを緩めることなく、ゴールラインを駆け抜ける。

まさに有言実行。
高校デビュー戦でえいりんはいきなり県トップになったのだ。

えいりんのゴールを見ると同時に、私スタンドの一番下まで駆け降りて行く。

「えいりん!」
下にいるえいりんに向かって私は思いっきり大声で叫ぶ。
彼女もすぐに私に気付いてくれた。

「さわのん。来てくれたんだ。えへへ。優勝しちゃいました」
えいりんは嬉しさ半分、照れくささ半分と言った感じで笑っていた。

「さわのん!」
今度はえいりんが私に叫んで来る。

「今からロビーの前に来て! スタンドから外に繋がる階段を下りて100mのスタート側に歩いて行けば分かるから」

それだけ言うとえいりんはスタンドの下に消えて行った。
私は言われた通り、ロビーに向かって歩く。

幸い、どの県も陸上競技場の大まかな構造は同じらしく、迷うことなくロビーまでたどり着いた。

えいりんはすでに来ており、私を見つけるなり駆け寄ってくる。

「やったよ! さわのん」
改めて報告して来るえいりんは、全身から嬉しさが溢れている気がした。

そう言えば、えいりんは中学生の時、トラックで県チャンピョンになったことは無かった気がする。

中学の時は6月、7月、10月にトラックの県大会があるのだが、そのうちの2回は私が。もうひとつは一学年下の若宮紘子と言う子が優勝した。まぁ、その子が優勝した試合、私は故障中で走ってないのだが。

「人生初の県制覇! まぁ、地元の山口県じゃなくて熊本でだけどね」

えいりんの一言に自分の記憶が正しかったのだと思った。
と、私はあることを思い出す。
えいりんの携帯番号を聞かなくては。

「でさぁ、さわのん。携帯の連絡先、教えてよ」
私が言う前に向こうから言って来る。
どうも、お互い考えていたことは同じだったらしい。

赤外線通信を使ってお互いの番号を交換する。

それが終わると同時に「ダウンに行かないと監督に怒られるから。また連絡するね」と早口で喋りながら、えいりんはどこかに走って行ってしまった。

仕方ないので私もバスと路面電車を使って姉のアパートに帰ることにした。

その帰り道、路面電車に揺られながらふと思った。

中学生の時はえいりんとなんども争った。
でも……、仮に今日のあのレースに私が出ていたとして、果たして今の私はえいりんと競り合うだけの力があるのだろうか。

その答えを考えようとすると、水槽に設置されたエアーポンプから出る泡のようにポコポコと色々な考えが浮かんで来るものの、すぐに消えていってしまう。

結局、姉のアパートに戻っても、次の日に実家に帰っても結論は出なかった。

三連休最後の夜、晴美から電話が来たので、その思いを話してみた。

「考えても仕方ないんじゃないかな。今勝てるか勝てないかより、次に勝負する時には絶対に負けないように練習を積み重ねるって決意する方がよっぽど有意義だと思うかな」
そう言われると、私はなにも言えなくなってしまった。