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風のごとく駆け抜けて

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次の日のメイド喫茶は、忙しいと言う言葉では表しきれなかった。
店を開ける前からすでに行列が出来ており、開店しても後から後から人がやって来る。

あまりの忙しさに永野先生は由香里さんに電話を掛けヘルプを求める始末。

やって来た由香里さんも整理券を配ったり、お客さんを誘導したり、会計を行ったりと忙しそうだった。

13時を過ぎた頃、あまりの長蛇の列が周りの模擬店の邪魔になると、けいすい祭実行委員がやって来て、駅伝部のメイド喫茶は強制的に閉鎖に追い込まれてしまった。

一緒に来ていた先生が言うには前代未聞のことだそうだ。

でも、私達は残念と思う反面、閉鎖されてほっとしたのも事実。

「いや、さすがにここまでとは思わなかったわ。でも2日間しっかりとメイド服が着れたからうちは満足ね」

閉鎖したあとの教室で後片付けを終え、一息ついている時に葵先輩が本当に満足げに語る。

そこまでメイド服が好きなのだろうか。

「自分も色々と経験出来ましたし。良い文化祭でした」
紘子が言う経験が何を意味するのかは追求しなかったが、それでも紘子はいつも通りだった。

もちろん朝から私とも普通に会話もしている。

「それにしても澤野さん、凄い恰好ね」
由香里さんにまで突っ込まれてしまった。
なんだかこの2日間で慣れきってしまったがやはり初めて見ると凄い恰好のようだ。

「あ、そう言えば綾子。昨日のメール本当なの?」
言われて永野先生が「あっ!」と言う顔になる。

「そうだった。あまりの忙しさに説明を忘れてた。お前ら。再来週の高校選手権の種目決めたから」

私達は一斉に永野先生の顔を見る。

「3000mに大和、湯川、那須川」
「あの……。私も試合に出られるのですか」
朋恵が不安そうな声を上げる。

「もちろんだ。那須川も駅伝部の部員だろ」
「いえ……。私、足遅いですし」
「大丈夫。朋恵も入部した時に比べたら随分と速くなったわよ。夏休み最後に走った3000mも12分58秒で自己新をまた更新出来たじゃない」
葵先輩が朋恵に優しく微笑むと、朋恵も強く頷く。

「それと1500mには澤野と藤木」
私と紗耶の目が合う。
全員が同じ種目に参加した記録会を除けば、紗耶と同じ種目になるのは初めてだ。

「あと澤野は800mもエントリーしておいたから」
「いえ、ちょっと待ってください。確か高校選手権って2日間の日程ですよね。それで2種目はきついんじゃ」
永野先生に思わず抗議する。

「心配するな澤野。さすがに昨年のタイムテーブルはあちこちから苦情が出たみたいでな。今年は、800m、1500mとも3000m同様タイム決勝だ。つまり2日間で800mを1本と1500mを1本だけと考えれば楽勝だろ」

なるほど。確かにそれだったら問題は無さそうだ。
と、紘子が猛抗議を始める。

「なんで自分の名前が無いんですか。変ですし。おかしいですし。自分は試合に出れないんですか」
「落ち着け若宮。話はまだ終わってないんだ。県高校選手権初日と同じ日に、広島で5000mの記録会がある。若宮はそっちに出てもらう。で、私は若宮を連れて広島に行く。だから、選手権の初日は由香里に全部任せることになる。私達も終わりしだい、そっちに合流するがな」

永野先生が私達を見るので全員が頷く。

「あ、それとだな。今年はナイター陸上は出ないぞ。ちょっと思うところがあって、ここにいる全員で10月中旬に5キロのロードレースに参加するから」

「へぇ5キロ。みんなすごいかな」
「いや、佐々木。お前も出るんだよ。ここにいるみんなでって言ったろ。私も参加する予定だし」
その一言に晴美だけでなく私達も驚く。

「私に5キロなんて無理です。そもそも体力が」
「大丈夫。市民レースの5キロだから速い人もいっぱいいるけど、完走を目的に走る人もたくさんいるから。私だって30分が目標だしな。体力もこれから少しずつ部活の時に走れば、十分に間に合うから。それに佐々木、いつもマネージャーで頑張ってくれいるが、一生に一度くらいは『みんなと同じ試合に出たと言う思い出』があってもいいんじゃないか。大人になって、みんなで会った時に良い酒の肴にもなるぞ」

永野先生が晴美に微笑むと、晴美もまんざらでもない様子だった。

「そうだよぉ。せっかくだから出ようよぉ、はるちゃん。なんだったらわたし達と同じユニホームを来て走れば良いんだよぉ」

紗耶の提案に誰もが賛成する。
朋恵にいたっては、「私より佐々木さんの方が速いかもしれまん」と言い晴美に全力で否定されていた。

「ねえ、ちょっと待ってよ」
由香里さんが不満そうな声を上げる。

「綾子、まさかとは思うけどその全員って私も含まれてたりしないわよね」
「いや、含まれてるからここにいる全員って言ったのよ。いいじゃない、せっかくだから出ましょうよ。と言うより、すでに申し込みは終わってるのよ。締切が9月上旬だったし」
「あなた、なに勝手なことしてるのよ! 私が走るの遅いのは知ってるでしょ。それに……胸が大きいから、走る時に邪魔なのよ」
最後の方はか細く、消えるような声を出して由香里さんが俯く。

「だから、別に速さはとやかく言わないって。途中歩いてでも、制限時間以内に完走すればいいのよ。大切なのは全員で同じ大会に出場して、駅伝前に結束力を高めるのと、5キロの走力が知りたいの。だいたい、由香里は毎日ウォーキングと筋トレをやってるんだから、完走できるって」

「まったく。あきれてこれ以上なにも言う気になれないわ」
由香里さんは不機嫌そうな顔をしながらも、それ以上は何も言わなかった。
反対しない以上、走るつもりなのだろう。

こうして試合の予定を聞かされると、気合いが入る。
「文化祭が終わると3年生は受験に向けて勉強あるのみ」と葵先輩が片付けの途中で言っていたが、私達駅伝部にとっては、県駅伝に向けて練習あるのみと言ったところだ。