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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王

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4章 理想と現実

 
 
 
 砦の中に入り、姿を表したヴォーチェが三人を先導して前を歩く。
「なあ、王様。あいつらに見せたくないものってなんだったんだ?」
 空気を読んでなんとなくアムルに従ったものの、いまいち状況の飲み込めていなかった。レオがアムルに尋ねた。
「プラントだ。我々が昼食をとっている間に偵察に行かせたヴォーチェの報告によれば、奴らはこの館でオークを生産しているらしい。おそらくオークで我の軍に対抗するつもりなのだろう。オークの生産には人間の女の腹を使う。それに一度オークを宿した女は廃人になる。・・・つまりはそういうことだ。クロエとソフィアは察したようだが、そういう場面をミセリアに見せるのも、エーデルガルドに見せるのも、な。かと言って二人で残れと言っても聞かぬだろうから4人で残した。お陰で少々骨の折れる仕事になってしまったが頑張ってくれ。」
 アムルはそう言って笑いながらレオの肩を叩くが、その表情は笑い声とは裏腹にイマイチ晴れない。
「王様よぉ、あんたちょっと過保護なんじゃないか。エドにしても、ミセリアにしても。」
「・・・かもしれぬな。あの二人は似ておるのだ。死んだ我の妹にな。だからお主の言うように多少過保護になっているのかもしれぬ。」
「そっか、あんた妹さんが・・・悪いな。変なこと聞いちまって。」
「構わぬさ。・・・さて、では三人ともしっかりな。」
 多くの足音が近づいてる音を聞いたアムルが鋼鉄のガントレットを胸の前でぶつけて構えを取った。
「えっ?武器らしいもん持ってないなあーとは思っていたけど、王様無手なのかよ。」
 そう言いながらレオは腰に帯びた大ぶりのナイフを抜いた。
「はっはっは。我の信頼する武器。それは己の肉体よ」
「来たぞ。」
 そう言いながらオークと一番最初に相対したアレクシスが振り上げた剣で先頭のオークを袈裟斬りにした。
相手が多いとは言え、館の中である。オークたちは廊下にすし詰め状態になっていて動きは鈍い。
 戦端を切ったアレクシスとヴォーチェはノロノロと動くオークたちを、練習していたのではないかと疑ってしまうほどの素晴らしいコンビネーションで次々に斬り伏せ、あるいは蹴り殺してゆく。
「これは、我とお主の出番はないかもしれぬのう。」
 しかしそう言ってのんびりと笑うアムルの後ろからは別のオーク達が迫ってきていた。
 それにいち早く気がついたレオは時間を止め、今自分たちがいる、少し広くなっている踊り場の部分に今にも入ろうとしていたオークの首を撥ねる。なんとか包囲されることは防いだものの、オークの数はかなりのものだ。レオは少しだけげんなりしながらナイフを振り続ける。
「はっはっは、レオよ、一旦そこをどけ。」
 魔法が切れた後、背後のオークに気がついたアムルに言われてレオが身をかわすと、レオのすぐ横をアムルが通り抜けた。そしてアムルは右突きで先頭の一匹目のオークを叩き潰すと、その体をオークの集団にぶつけて足止めに使う。
 そしてアムルは半身に構えて左右に足を開いて腰を落とした。
「はぁっ!」
 アムルの声と共に左腕から放たれた、初手の一撃よりもゆるやかなその突きは、命中したオークの体を激しく振動させ、さらにその振動しているオークに触れているオークをも振動させる。
 そして10秒ほどたった所で、振動していたオークが体中から血液を吹き出して爆ぜた。その数20。攻めてこようとするオークはまだまだいるが、ただでさえ動きの鈍いオークが折り重なった死骸の上を四苦八苦しながら歩いてくるので身軽なレオとしては非常に与し易い状況になった。
 状況を確認したレオは時間を止め、壁を蹴り、首を撥ねたオークの死骸すらも足場にしながら敵陣深くまで切り込んでいく。
 しばらくして、レオがオークの首をすべて撥ね終わった頃、アレクシス達の戦いも終わっていた。
 アレクシスもヴォーチェもさすがに息が上がっていたが、ふたりとも怪我らしい怪我はしていないようであった。レオもベッタリとオークの血に塗れているもののかすり傷ひとつ負ってはいない。
「ご苦労ご苦労。」
 三人の無事を確認すると、一人だけ息の上がっていないアムルがそう言って笑った。
「もう少し手伝ってくれたってよかっただろ。」
 レオがそう言って抗議の声をあげるが、アムルはそれをはっはっはと笑い飛ばした。
「我とレオが屠ったオークの数は同じだぞ。我はきちんと仕事は果たした。自分の仕事の効率が悪いからといって我をせめるのは筋違いというものだろう。」
「く・・たしかに同じだったから文句言えねえ。」
 倒したオークの数を指折り数えてアムルの言っていることが正しいことを確認すると、レオは悔しそうにそう言った。
「はっはっは。では行くとしようか皆の者。」
「見つけた!アレク、アムル、私も連れて行って。」
 先に進もうとしていた一行が振り返ると、レオとアムルが倒したオークの死骸を乗り越えてエドがこちらへやってきた。
 エドの姿を見たアムルは一瞬だけ苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたがすぐにいつもの「はっはっは」という笑い声を上げた。
「来てしまったかエドよ。そういう好奇心が旺盛なところは昔から変わらんなあ。まあ来てしまったならば仕方がなかろう。・・・だがなエド。ついてくる以上はこの先、何があっても最後まで自分の目でしかと見よ。目をそむけることは許さんぞ。」
「・・・わかった。」
 神妙な顔で頷くと、エドはアムルたちと合流して歩き出した。
 
 
 一行がヴォーチェに先導されて館の中を進むと、途中の部屋の扉の奥から饐えた匂いが漂ってきた。
「何・・・この匂い。」
 いち早く気づいたエドがそう言って鼻をつまむ。
「ふむ・・・。気になるのなら覗いてみるといい。この中にはせいぜい居てもオークだけだろうからな。お主なら倒すことも容易だろう。」
「アムル!」
 エドに扉を開けるよう促したアムルの胸ぐらを掴んでアレクシスがアムルを睨みつける。
「何を考えている。エドに変なものを見せようとするな。」
「はっはっは。・・・エドが自分で行ったことだ。何が合っても目を背けぬとな。だから我はエドに扉を開けるよう薦めたのだ。それの何が悪い。」
「だからって・・・!」
「やめてアレク。・・・ねえ、アムル。私はこの中を見たほうがいいってことだよね?」
「それは知らぬな。だが、お主が王族として生きてゆくつもりがあるのならば、こういう現実もあるということを知っておくべきだと、我は思う。」
「そっか。じゃあ、開けてみる。」
 そう言ってドアにかけたエドの手をアレクシスが掴んだ。
「やめるんだ。君は見なくていい。君は知らなくていい。」
「離して、アレク。」
「駄目だ。見るな。」
「命令しないで。私は、私の判断で行動する。」
 そう言ってアレクシスの手を払いのけると、エドは扉を開いた。
 
 扉の開いた部屋の中には10台ほどのベッドが据え付けられており、そのベッドにはそれぞれ裸の女性達が首輪と鎖で繋がれており、その中の三人ほどは妊娠しているらしく腹が大きく膨らんでいた。