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予知夢

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 そんなことが続いたある日、正造は風邪を引いた。最初はただ咳が出るだけだったのが、みるみる内に悪くなり、やがて肺炎になって、外を歩くこともできなくなった。正造は床に臥せり、こんこんと眠り続けては、時折目を覚まして水を飲んだ。記者達は波が引いたように来なくなり、両親は悲嘆にくれ、村人達はヒソヒソと噂を交わした。
 やがて、正造は死んだ。五歳と一ヶ月になったばかりだった。正造が床に臥せっている間は寄り付きもしなかった記者達は、正造が死ぬと『予知夢少年死亡! 自らの死は予知できず』という見出しをつけて騒ぎ立てた。両親は隣近所に挨拶だけして、間も無くその土地を出て行った。正造もその両親もいなくなって、村に静寂が戻ってきた。
 正造が死んで一年が過ぎた頃、正造達一家の近所に住んでいた住民が、土地を離れる準備を始めた。どことなくそわそわした様子の彼らは、先祖代々続いていた田圃を手放し、家も売り払った。不審に思った一人の村人が彼らに理由を問い質したところ、返って来たのはこんな言葉だった。
「正造の遺言なんだ。自分が生きとる間に見たと話していた予知夢は全て、自分が死んだ数年後に起きる、っちゅう夢を、正坊は死ぬ前の日に見たっちゅうんじゃ。だからわしらも、今の内に逃げておくつもりなんじゃ」
 しかし、生きていた頃、正造の夢は尽く外れたではないか、と反問され、その村人は声を顰めて答えた。
「正造の夢はな、ちょくちょく当たっとったんじゃ。ほんの小さい頃からな。あの子はよくウチで預かって面倒見てたから分かるんだが、昼寝している時の正坊がよくしとった寝言は、いつも現実になっとった。あの子は死ぬ前も、昼寝中に、胸が熱い、苦しい、と寝言を言っとった。今思うと、あれは自分が死ぬ夢を見とったんじゃな……。分かるか。正坊が口にしとったのは、あくまであの子が覚えとった夢の話でしかない。でも、あの子が覚えとらんかった夢も現実になっていたっちゅうことは……あの子が見た夢は、全て、実現するっちゅうことなんじゃ」
 この話は瞬く間に村中に広がり、人々は半信半疑ながら、正造が生きていた時よりも強い不安に苛まれることになった。怯えた村人のうち何人かは、そそくさとその土地を出たが、大半の村人はそのような行動に出ることはできず、そのまま村に留まった。
 それからまた一年が過ぎ、村人達が再び正造のことを忘れ始めた頃、一年前に村から逃げ出した村人の一人が、ある正造の寝言を思い出した。彼は頭を抱えた。

 日本に戦争の空気が漂い始めたのは、それから間も無くのことだった。
作品名:予知夢 作家名:tei