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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

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『記憶喪失とか幻覚とか見ちゃうやつさ! うっかり飲み込んだり傷口に入らないようにね!』
 仲間の警告通り、オレ達は細心の注意を払って魔物を倒した。種がどこにあって、どう防げばいいかが分かったのが勝因だった。けれど、それでは終わらなかった。魔物を倒した瞬間、石でできた槍がオレ達に襲いかかってきたのだ。
『あんた達、しぶといのね』
 そう言って現れたのは、なんとオレ達に魔物退治を依頼した女だった。女はオレ達をここにおびき寄せるために、魔物退治をしてくれなんて嘘の依頼をしたか。そのことに、オレ達は気付いた。
『ここで暴れないで。森を傷つけないで。お願い』
 女は懇願するようにそう言った。
 言って、冷徹な目で、オレ達を見下ろした。
『このアスクレピアの住人になって』
 訳の分からないことを言って、女は襲いかかってきた。降り注いで来たのは石の槍。それを何とか避けながら、オレ達は女を倒そうとした。魔術師がこんなところで何をしているのかは分からない。けれど嘘の依頼で人を嵌めるなんて、叩きのめした上で退治屋同業者組合(ギルド)の犯罪取締局にでも突き出すべき所業だ。そう思って、オレ達は女との攻防を続けた。
 けれど、それは叶わなかった。戦いの途中、キーネスの放ったナイフが、女の心臓を貫いたのだ。
 それは事故と言っても良かった。キーネスは牽制のつもりで投げたのに、女がオレ達から飛びのいたために、たまたまナイフが当たってしまったのだ。
 女は糸の切れた人形のようにばったりと倒れた。じわじわと広がる血だまり。動かない女。心臓に当たったのだ。即死だろう。
 オレ達はとりあえず安堵した。女が何のためにこんなことをしたのかは分からなくなってしまったが、とにかくこれで攻撃されることはなくなったからだった。
 だがその時、風もないのに樹々がさわざわと揺れた。
 一際激しく揺れているのは、広場の奥にあるあの大樹。枝はしなり、幹は揺れ、今にも地面を抜け出して動き出しそうだ。その根元に咲く赤黒い花も始めのうちは動きこそなかったものの、樹々の鳴動がやんだ瞬間、花芯から触手のようなものが伸びてオレ達に襲いかかってきた。
 オレ達は触手をかわし、撃退するも、襲いかかってきたのはそれだけじゃなかった。地面から現れたのは、樹の根と蔓。それらが全て、オレ達を狙ってやってくる。
『よくもあたしの身体を殺してくれたなぁぁぁぁ!』
 あの女の声がした。血だまりの中に倒れる死体からではない。あの妖花から聞こえたのだ。あの女は人間じゃなかったのか。魔術師ではなかったのか。妖花に宿り、魔物をけしかけてくる、
『あいつは悪魔だったのか!?』
 悪魔だとしたら、退治屋のオレ達では太刀打ちできない。それとも、花に取り憑いている今なら倒せるのだろうか? どちらにしても、根と蔓と触手の猛攻で、オレ達は花に近付くことも出来なかった。
 奴らが一番狙っていたのはキーネスだった。あの女の身体を殺したのがキーネスだからだろう。あいつは持ち前の機敏さで避けていたけど、それも限界が見え始めていた。
 そんな時にオレはしくじった。キーネスに迫る樹の根を斬り落とそうとしたら、思った以上に素早いそいつはオレの剣をかわして、脇腹を鋭い根の先端で抉っていったのだ。オレは軽く吹っ飛んで、地面に転がった後もすぐに起き上ろうとしたけど力が入らなくなった。
 身動きが取れなくなったオレを、キーネスが助け起こそうとしてくれた。奴らはキーネスから動けなくなったオレに標的を切り替えていた。その状態でオレを助けようとしても、危険が増すだけだ。それは分かっていたが、そう言っている暇はなかった。そして、駆け寄るキーネスの背後には、樹の根が迫っていた。
 オレは警告できなかった。キーネスは気付いていなかった。
 気付いていたとしても、かわすには遅すぎただろう。その時にはキーネスも怪我していたのだから。
 でも、オレ達は無事だった。仲間が木の根を身を挺して防いでくれたからだった。
 木の根は魔術の雷を潜り抜けて、術者の胸をかすめた。ぱっと鮮血が散った。アイツはゆっくりと仰向けに倒れた。
「オリヴィア!!」
 叫べないオレの代わりに、キーネスが今までに聞いたことのない、酷く焦った声を上げた。
 そして、