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烈戦記

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父さんはこういう人だ。

『…っぷ、冗談だよ。本気にしないでよ父さん』

そうだとも。
父さんはいつも自分の事より周りの事を考えてくれている。
僕が叔父さんに預けられていたのも、まだこの関に赴任当初は治安が今より良くはなく、毎日のように狭い通路で商人と住民との間で揉め事が起きていた。
更には住民側が自分達の正当性を主張する為に組合なる組織を作り上げて暴力で商人達を追い出そうとするなど散々であった。
そんな状況では息子の相手はおろか、息子の安全すら確保してあげれないということで僕は叔父さんに預けられる事になった。
それに治安が良くなった後だってこの関は交易の要にある拠点である。
やる事は山済みなのに間を見つけてはわざわざ関に僕を呼んで相手をしてくれた。
そこまで考えてくれている父さんを嫌いになれるわけがない。

『僕は父さんの息子で鼻が高いよ』
『すまんな』
『いいって。それにこれからは一緒に住むんでしょ?気にならないよ』
『うむ、これからはしっかりワシの後を継げるようにしてやるからな』
『ははは…。あ、そういえば僕、なんで宿舎で寝てたの?僕、今朝の事あんまり覚えてなくて』
『やはり覚えてはいないか。ワシの所にお前達が着いたと聞いたから出ていけばお前、凱雲の前に乗せられて居眠りしておったぞ』
『あー…なる程』
『そのまま凱雲がお前を宿舎に連れてったんじゃないか?あ、それはそうとお前達賊に襲われたそうじゃないか』
『うん。…凱雲ってすごいんだね』
『そうじゃろ。ワシの頼もしい片腕じゃからな。…ところで何人の賊に襲われたんじゃ?あいつは大した数ではないと言うが何分あいつは謙遜が過ぎる部分があるからな。賊の規模によっても色々やらねばならないからな』
『ん〜…18人くらいじゃないかな?』
『…まぁ、確かにあいつにとっては大した数では無いな』
『え…』
『賊くらいならあいつ、50は相手にしてみせるんじゃないか?』

言葉が出なかった。
県庁さんからもらっていた書物の中で豪傑と呼ばれる存在の事は知っていた。
だが、あの凱雲がその豪傑に近い存在、または肩を並べれる存在だとは思いもしなかった。

『それはいくらなんでもないんじゃないかな?』
『いや、ワシらは幾つかの戦場に赴いた事があるが、あいつの強さときたらそりゃもうすごいものだったぞ?時には凱雲を見ただけで敵兵は逃げる時もあったからな。ははは』

笑い事ではない。
もし仮にそれが本当なら僕は次に凱雲と会う時どんな顔をすればいいかわからない。
現に今も今までの事を思い返してみてはいるが、とてもじゃないがそんな人に対する接し方をした覚えがない。
それどころか僕は小さい頃に一度凱雲の顔に泥だんごをぶつけた事だってあったのだ。

背中を嫌な汗が流れた。

『…っふ、お前なんて顔をしているんだ。』
『…いや、これからは凱雲を怒らせないように気をつけようかと』
『いやいや、あいつは小さい事は気にしないからいつも通りでいいんじゃないか?変にお前がオドオドしていてはあいつもどうしたらいいか困るだろ』
『…そうだね。ところで言っちゃ悪いけど、よく凱雲はこんな辺境に留まってるね。都の方なら今みたいな一武官じゃなくてもっといい場所につけそうなのに』
『確かにな…。実際北の涼族との戦が終わった時、凱雲に都から直接部隊長への誘いがあったみたいだが、どうにもこれを断っているんだ』
『父さんも大分慕われてるね』
『いやいや、多分あいつはこの地方から離れたくないんじゃないか?まったく、あいつも変わり者だよ』

父さんはどうにも昔から人の好意にはうとい。
実際父さんは県長だった頃からみんなに慕われていたし、今だって兵士や街の人達からも信望があつい。
だが、本人にはまったくそれがわからないようだ。
でもそこが父さんのいいところなのかもしれない。

『あ、そうだ。凱雲ってどこにいるかわかる?』
『あいつはお前を宿舎に連れて行った後、自分も休むと言っていたぞ』

確かに凱雲は僕の護衛で村に来た時から一睡もしていない。
本当なら父さんの言うとおりなのだが。

『わかった。ならこれから凱雲の所に行ってくるよ』
『うむ、終わったら宿舎の方にいてくれ。色々話さねばならない事があるからな』
『うん、仕事頑張ってね』
『あぁ』

そう言って部屋を後にした。



『迎撃、構え!!』
『『ハッ!!』』

部隊の駐屯所に凱雲はいた。
凱雲の事だと思って真っ先に来て見たらやはり自室で休んでなどいなかった。
多分何故かと問えば職務だからと言うのは目に見えている。
しかし父さんがああいう性格だ。
凱雲が休まず練兵に精を出していると知れば意地でも凱雲を自宅へと追いやるだろう。
しかし凱雲も長年父さんと一緒にいる間柄それをされる前に手を打っている。
だが、そんなにも仕事熱心になるのはどうかと思う。
体を壊しては元も子もない。
それに朝方に関に着く予定だったものを僕が村の人達と別れを惜しんで一行に村から出られなかったために予定を狂わせてしまったのかもしれない。
そう思うと少し申し訳ない気がする

『あ!!帯坊だ!!』

一人の兵士が僕に気付き走って来た。
それに続いて他の兵士達も腕を止めて僕の方に走って来る。
それを見ていた凱雲は始めは止めに入ろうとしたが、僕の登場で既に空気が訓練の雰囲気では無くなったのを察し諦めたようだ。
始めに走って来た兵士が小声で耳打ちする。

『よくやった帯坊…!!』

どうやら僕はみんなのサボりに利用されたようだ。
続々とみんなが僕の周りに集まってくる。
僕も凱雲に聞こえない声で喋る。

『みんな相変わらずだね』
『いやな?今日は帯坊の護衛から凱雲様が戻られたばかりだからみんな訓練は無いものだとばかり思っていたんだが…甘かった』
『みたいだね』
『ワシらだってたまには休暇が必要じゃというのに…帯坊、なんとかならんか?』
『なんとかも何も僕には何の権限もないよ』
『いや、最悪凱雲様でなくても豪統様に伝えてくださればいいんじゃ、"兵士がみな休暇を欲しがっておる"と』
『ん〜…どうしよっかな〜…』
『お願いじゃ!!』

みんな一斉に僕に頭を下げ始める。
こうやって責任者の息子に対して"休みをくれ"と兵士達が頭を下げるあたりこの関の防衛は大丈夫なのだろうか。
まぁ悪い気はしないが。

凱雲がこっちに向かってくる。
兵士達からは次第に焦りに似た感情が伝わってくる。
よし、今だ。

『あ、そういえば今関庁の前の警備している二人にすごくからかわれて恥ずかしい思いしたな〜』
『おい、誰か!!今の時間関庁の警備してる奴を知ってる奴いるか!?』
『確か牌頻と陳常が居た気がします!!』
『よし、あいつらには悪いがワシらの為じゃ。犠牲になってもらおう。それでいいか?』
『うん。父さんに伝えとくよ。』
『『ウォー!!』』

兵士達から一斉に歓声が上がる。
そんなに休みたいのかこの人達は。
凱雲が若干顔を渋らせながら僕のそばまで来る。
多分何か良からぬ事が起きたのだとは察したようだが既に遅い。
ニヤニヤして凱雲を見る兵士達の中を凱雲が歩いて来て僕の所にくる。

『豪帯様、良く寝られましたかな?』
『おかげでね』
作品名:烈戦記 作家名:語部館