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烈戦記

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第六話 〜初仕事〜






…僕ががんばらなきゃ。

寝床から身体を起こし、唐突に心の中で呟いた。
窓の外は相変わらずの晴天だ。
こんな時でも外からはこの関の活気や雑踏が流れこんでくる。

そうだ。
いくら僕が嘆いたところで世の中は関係なく進んでいく。
だからこそ僕は前を向いて進まなきゃ。
…じゃなきゃ父さんはきっと僕の分まで無理しちゃうに決まってる。

昨日は泣き疲れて朝なのにも関わらず、いつの間にか昼まで寝てしまっていた。
前日に眠れなかった分が祟ってしまったんだと思う。
でももうそんな事はしない。
僕は昨日決めたんだ。
早く仕事を覚えて父さんを支えるんだと。

寝床から降り、身支度を整える。
衣服は村にいた頃のとは違い、しっかりと装飾の入ったモノだ。
僕の為に父さんが用意してくれた服。
だが、今はできるだけこの服を着たくない。
何故かといえば、僕と同じ年の洋班の衣服が華やかで、同じ空間にいるだけで惨めな気分になるからだ。

確かに身分の格差なんてあって当たり前の事だ。
そんな事を言えば村のみんなはどうなる?
服だけじゃない。
食事から寝床までどれ一つとっても誰しもがこんな生活ができているわけじゃない。
だから僕はこれからの生活相応にみんなの為にこの関で頑張ろうと思っていた。
どんな身分になったって僕はみんなと同じという事を忘れないように。

…でも、だからこそ僕はあの洋班を認めたくないし、認めてはいけないと思ってる。
身分が低い人間は身分の高い人間の為に働く。
高貴な人間は低俗な人間より優先される。
それを当たり前のように、そして漠然と世の中の決まり事のように語る彼を僕はどうしても好きになれない。

そんな彼と同じ空間で何かで劣っていると見られるのが僕は辛い。
…でも、僕はこの服を来て彼と会わなければいけない。
じゃなきゃ父さんがまた酷い目に合わされる。

『…』

鏡を見る。
なんて幼いんだろう。
村にいた頃は散々性格や背や顔の事で幼いと弄られていたが、もう中身だけは幼いままではいられない。
僕が問題を起こせば僕だけでなく周りも巻き込んでしまう。
我儘はもう言えない。

悔しいが洋班から学んだ。
権力のある人間には逆らえない。
それがたとえ間違っていても。
それが今の世の中の決まり事なのだと。

…もし、それを飲み込む事が大人になるという事なら僕はどうすればいいのだろう。

…世の中は本当にそんな事でいいのだろうか。

僕は枕元に立て掛けていた鉄鞭に目をやる。

…あの人が望んだ世界はこんな世界なのだろうか。


僕は鉄鞭を腰に差して部屋を出た。



父さんの部屋の前まで来た。
確か昨日の話しだと今日の昼までには兵士の一団が来るらしい。
そしてその受け入れ準備が必要ならきっと父さんは今その事で手が一杯だろう。
なら僕はまだこの関の事は何も知らないけど、何かを手伝えるかもしれない。
僕は部屋の戸を叩いた。



『父さん』
『…ん?あぁ、帯か。ちゃんと寝られたか?』
『大丈夫だよ。それより父さんは?』
『私も凱雲が昨日の内にだいぶ仕事を片付けてくれていたからな。しっかりと寝れたよ』

多分嘘だ。
笑顔は自然だが目の下には隈ができている。
父さんの机の上の資料の量を見る限り、凱雲ではできない仕事をやっているのだろう。
だが、その資料の量を初日に見た時と比べると多い気がする。
きっと洋班が来てからの事で色々と大変なんだろう。

『それより帯よ。私に何か用か?』

父さんは僕の視線の先に気付いたのか手元の資料を退けて話を聞く体制になる。
あまり長い時間はとりたくない。

『うん。僕も父さんの仕事を手伝いたくてさ。何か無いかな?』
『うむ…手伝ってくれるのはありがたいんだが、今私の手元には帯のできそうな仕事は残ってないな』
『…そっか』

よく考えればそうだ。
凱雲ができない程重要な仕事を僕にできるわけないよな。
それに今は大変そうだから僕に何かを教えながら仕事をやる余裕がないのだろう。
残念だ。

『あっいや、しかしな?凱雲の所にならきっと帯でもできそうな仕事があるかもしれんぞ?そっちを帯に頼めるか?』

しまった。
父さんが僕の顔を見て慌て気をつかい出す。
…すぐ感情を顔に出すのもこれから気をつけよう。

『えっ?本当っ!?』

本当なら一番大変な父さんを手伝いたいが、あえて僕は大袈裟に喜んでみせる。

『あぁ、任せた!』
『わかった!それならすぐ行ってくる!』
『うむ』

父さんは安心したように顔を緩める。
父さんも父さんで凄く単純ですぐに顔に感情が出る人なんだと思った。
そう思うと家族なんだなって思えて、思わず口元がにやけてしまう。

だが、そんな清んだ気持ちも不意に意識した父さんの痣を見てしまい現実に戻される。
でも、だからこそこんなやり取りの一つも大切に感じる。
だから僕はこの空気を壊さないように痣には気付かなかった振りをして部屋を出た。



帯が出て行った後、私は大きな溜息をついた。

『本当ならこんな会話を毎日してやれたんだがな…』

帯が関に来る前にほとんどの仕事を終わらせて待っていたのに、まさかこの時期に洋班様がこられようとは…。

手元の資料に目を落とす。
政務関連はすっかり昨日の内に片付けられていて私の仕事という仕事はほとんどなくなっていた。
それというのも凱雲が本来私のやるべき仕事にまで手を出したらしく、私がした事といえば帯が来る少し前に凱雲のまとめた資料に印を押すだけだった。
まったく…。
奴は私の為なら平気で本来の規則や役目立場を超えて働いてくれる。
頼もしいというかなんというか…。

そして今やっているのは完全に別件だ。
洋班様がこられたからには私は洋班様の命には絶対に逆らえない。
そして洋班様は…あのような性格だ。
何か関内の事や規則について気に入らなければ即座に変えろと言い出しかねない。
そうなれば一番被害を受けるのはこの関で商いをしている商人達だ。
だから私はこの関で有力な商人達にあらかじめその状況を伝え、それに伴う一応の準備と注意を促す文を書いている。
本来ならこのような内部事情を晒すような事はしてはいけないのだが、彼ら商人は私がこの関に就任して以来治安や活気を出す為に色々な事に尽力を尽くしてくれた所謂仲間のような存在だ。
だからこそ私は彼らとの信用を大切にしたい。

帯よ。
気持ちは確かに嬉しいが、これは私個人の事だ。
だからお前に手伝わせる訳にはいけないのだ。


青くなった左頬の痣をさする。
痛みはだいぶ引いたが、力を加えればまだ痛む。
あいつは私に気を使わせない為に気付かない振りをしていたが、それでもやはり嘘をつくのは下手なようだ。

『…気苦労をさせるな』

私は一息ついて文書に筆先を下ろした。



父さんの部屋から一直線に練兵所まで来た。
本当凱雲を探すならまず凱雲の部屋に向かうべきなのかもしれないが、凱雲が夜以外に部屋にいるのを想像できない。
そして一番強い印象はやはり練兵所なのだ。
村にいた頃から大抵は練兵所にいたし、昨日の話でも関の兵士を束ねているみたいな事を言っていたから間違いないだろう。
作品名:烈戦記 作家名:語部館