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烈戦記

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洋班は口角を釣り上げてこちらを見ている。
すっかり自分が優位に立っている事に安心しきっているようだ。

『ほぅ…洋班様は我が首がお望みか?』
『…っ!』

だが、私はそんな餓鬼に付き合ってやる程甘くはない。
怒気を圧し殺した声で睨みを効かせてやる。

『…お、お前の首何ぞ何の価値も無いわ!』

案の定、直ぐに根をあげて顔をそらした。
こういう権力にしがみつく人間に対して引いては頭に乗るだけだ。
だからこそ始めから権力が通じない人間がいる事をわからせる必要がある。
洋班は遣る瀬無いといった表情のまま上座に座り直す。
残念だ。
もし、このガキにもう少しの気概があれば叩き斬ってやれたものを。
まぁ、無いとわかっての挑発ではあったが。
だが苦し紛れとはいえ、我が首級に価値が無いとぬかした事、憶えておくぞ。

『…くそっ』

悪態をつく洋班の傍らで、さっきまで膝を付いていた豪統様と目が合う。
すると、気付かれないように小さく頭を下げられる。

…いえ、豪統様の命に従ったまででございます。

心の中でそう呟きながらこちらもあちらより深く、そして気付かれないように頭を下げる。

ふと後ろに目をやれば安心したように息をつく豪帯様がおられる。
彼は彼でとても素直で純粋でそこが魅力だが、裏を返せばまだ世の中の清濁を飲み込む器量が無いという事だ。それが仇となり今回の問題が起きた以上、これからもできるだけ洋班と近づけないようにしなければいけない。

『…そうだ』

唐突に洋班が口を開く。

『おい、豪統』
『はっ』
『俺は父上からお前に対しての命を仰せつかった。心して聞け。』
『ははっ』

父上、つまりは州牧からの関将である豪統様への命である。
多分この内容こそがこの洋班がこんな辺境へ来た理由なのだろう。
いったいなんなのだろうか。

洋班は懐より一枚の紙を取り出し、読み始めた。

『これより陵陽関にて治安向上の為、周辺の賊、および蛮族に対しての掃討を命ずる!尚っ、掃討作戦の指揮官は洋班に命ずる!以上!』

やりきったような顔で洋班が締める。
内容は要するにこの地の州牧様は自分の息子に実践の経験と賊掃討の名声を稼がせる為にわざわざ首都から離れたこの辺境にこのガキを遣わしたのだ。
だが、それなら洋班がこの地に来たのも頷ける。

基本的に賊は首都より離れた場所に発生するものだ。
何故かといえば、官軍の目から離れた場所にいれば、官軍側の行動する労力や時間などの理由から小さい規模なら目を瞑られる可能性が高いからである。
さらに、この地は元々蕃族との歴史がある地である為に賊、及び蛮族の数には困らないと踏んだのだろう。

だが、それはこの関に限っては見事に外れている。
そもそも賊に対しての対策は十分に進めていて、今ではすっかり関周辺は平和になっていた。
さらに蕃族にいたっては既に独自の共栄関係が出来ていて、互いに民族の違いはあれど商売相手である。
よっぽどの事がない限りは蕃族との問題は起きない。
それを州牧様は知らないようだ。
元烈国出身が聞いて呆れる。
だが、問題はそれではない。
豪統様はどうなさるのだろうか。

『…洋班様』
『ん?なんだその反応は。州牧の命に不満があるのか?』
『い、いえ、滅相もございません!ただ、その掃討する賊についてなのですが…』
『?』

これはどうしようもない。
賊は増やしたくて増やせるものではないし、そもそも現れてはいけないのだ。
洋班殿にはお引き取り願わなければ。

『実はこの近辺では賊は既に根絶やし、蕃族にいたっては既に友好関係を築いていまして…』
『…なんだと?』

わざわざこんな辺境に足を運んで頂いて申し訳ないですな。


『ならば蕃族を根絶やす』
『…は?』

…なんだと?

『賊がいないなら蛮族を狩ればいい』

こいつは何を言っているのか。
さっきの話を聞いていなかったのか?

『いや、ですから蕃族とは既に友好関係を…』
『蛮族との友好関係などに何の意味がある?むしろ我ら本国の民が劣等民族と友好関係だと?ふざけるな!』

…そうだ。
ここでの生活が長かったから忘れていたが、基本的に私達は他の民族を"劣等"と見下し自らを"高等"と名乗る民族であったのだ。

考え方としてはこうだ。
長い戦乱と歴史の中で勝ち残り、今では大陸15州を統べる我らが至高で尊い民族であり、他の追随を許さない絶対の民族である。
そして周辺民族は取るに足らない存在であり、あっても我ら民族を脅かす"害"でしかない…と。

この大陸は広大で古代の頃は民族が乱立していた地であった。
その中で民族淘汰を生き延びた自信がそのまま傲慢な民族性に繋がっているようだ。
私も例外ではなく、数年前の戦乱の時は自らを孤高の民族だと信じて疑わなかった。
むしろ他の民族との共存意識こそが少数派であり、民族淘汰の世界では種を絶滅させる危険な思想だと。
その後私は豪統様と出会って感化されてしまったが、誰しもが何百年も続く民族意識を払拭できる訳ではない。
それどころか、今でこそ少なくなった民族同士で均衡が保たれているが、いつまた民族淘汰が始まるかはわからない。
だからどちらが正しいかなんてわからないのだ。
都の方では大学ができて以来この民族至高主義の考え方を否定した教えを広めているらしいが、大学自体がまだ日が浅く、全体への意識の広まりも薄い。

そして今目の前にいる人間は多数派の人間だ。
最初は呆気にはとられたが、別段変な事を言っているわけではない。
そう考えると、民族意識すら忘れてしまえる程この関の環境は異質な程に独立し意識が統一されているようだ。
よし悪しはともかく、豪統様の統治はそれ程にしっかりしているようだ。

…さて、話はそれたがどうしたものか。

『し、しかし!蛮族ではあっても我々に利益をもたらす蛮族でございます!その彼らを無用な戦で根絶やしてしまうのは…』
『ならお前は俺にこんな辺境にまで来て何もせずに帰れというのか!?ふざけるな!』
『も、申し訳ございません!』

豪統様の必死な説得が続く。
私は一武官として関の方針について口を出す事ができない。
だが、州牧の命を退ける事は一関将には叶わない。
目標が無ければ話は別だが、いくら友好的といえど、蕃族はやはり蛮族なのである。
だが、蕃族との争いはなんとしても避けなければならない。
利益云々ではなく、共に生きる関の仲間として。
これは豪統様が一番に大切にしている意思であり、望んでおられる事だ。
そして私は豪統様の兵士だ。
主の望みを叶えるのが兵士の役目。
ならば…。

『洋班様』
『下っ端は黙ってろ!』
『この地にはまだ賊がございます』
『…あ?』
『凱雲!お前何を!』
『豪統!貴様は黙ってろ!』
『…っ!』

…豪統様、申し訳ございません。

『詳しく話せ』
『はい』
『…』

私はできるだけ豪統様と目が合わないように洋班に話し始める。
きっととても悔しそうに、そして怒りに満ちた目でこちらを睨んでおられるのだろう。

『陵陽関より西に位置する荀山という山の麓を根城にする賊がございます。規模はだいたい50〜100といったところでしょうか』
作品名:烈戦記 作家名:語部館