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烈戦記

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さっきまでの威勢が嘘のような情けない声を出した。
幸い剣ではないから切られて死ぬ事は無い。
だが、それでも重量のある鈍器で殴られればそれなりに痛い思いをする。
それに、いくら鈍器とはいえ僕の加減次第でこの男を殺す事だってできる。

見るからに恐怖に怯えている羊班。
これがさっきまで大口を叩いていた人間の顔とは思えないくらい恐怖で顔を引きつらせている。
なんて情けないんだ。
でも、もし僕が同じ状況ならどんな顔をしているのだろうか。
やはり情けなく顔を引きつらせて僕のように相手から蔑んだ目で見られてしまうのだろうか。
そう思うと何故かこの男に対して同情の気持ちと申し訳ない気持ちが出てきた。

『お、お前!!俺に指一本でも触れてみろ!!親父が黙ってないぞ!!』

だが、この一言で気が変わる。
この男はこんな状況に置かれてもなお、潔よく負けを認めず自分の親の権力にすがり付いて逃げようとする。
それが無償に腹がたった。
だが、最後に助かる機会を与えてやる。

『…父さんを馬鹿にした事謝ったら許してやる』

『な、何で俺がたかだか一関主ごときの為に頭を下げなきゃならんのだ!?俺は州牧の息子だぞ!!わかってんのか!?』

『…ッ』

機会はやった。
もう許してやるもんか。

『や、やめろ!!』

僕は鉄鞭を振り上げた。


『豪帯!!』


聞き慣れた声に振り返るとそこには父さんがいた。

『…父さん』

父さんはズカズカと僕に近づいてきた。
そして。


バチンッ


『…え?』

父さんの平手うちを左頬に受けた。

何故?
最初に浮かんだのはその言葉だった。
自分は何も悪いことをしていない。
正しいことを正しいと言っただけだ。
非があるのはあちら側で、命まで狙われて。

なのに・・・どうして?

だが、さっきまでは頭に血が上っていて気付かなかったが僕はとんでもない事をしてしまったと気付く。
州牧の息子を相手に牙をむいてしまった。
しかも、自分は勝ってしまった・・・。

自分の行いを振り返り、血の気が引いた。
僕だけじゃ済まされないかもしれない。

僕は父さんの顔を見れなかった。

『と、父さん・・・』
『…お前は部屋の外にいなさい』
『え…だって』
『出て行け!!』
『…ッ!?』

反論することができない。
僕の身体が強張る。
父さんがこんなにも大声で人を怒なるのを初めてみた。

『…後は父さんに任せなさい』

だが、その怒声とは裏腹に父さんの顔はとても悲しそうな顔をしていた。
どうしようもない。
父さんの顔はそう語っていた。


胸が苦しい。
どうすればいい。
どうなってしまうのだろう。
どうすればよかったのだろう。

そんな言葉が何十回も何十回も頭の中を駆け巡っていうように感じた。


父さんが羊班の元に近づく。

『ひっ…!』
『…』

羊班は父さんが近づくとまたも恐怖で情けない声をあげた。
それを察して父さんは少し離れた場所で止まる。
そして。


『…うちの息子が大変失礼な事をいたしました。申し訳ございません…』

そう言って父さんは羊班に向かって膝をつき地面に頭を擦り付けた。

目の前が真っ白になる。


父さん…


やめてよ…


そんな奴なんかに頭なんて下げないで…


僕の頬に涙が流れた。

『き、貴様!!』

羊班はようやく自分が優位に立ったと気付くと、みるみる内に表情を怒らせ父さんに近づいた。

『謝って許されることか!!』


ドカッ


そう言うと地面に頭をつけていた父さんの顔を思い切り蹴飛ばした

『ッ…!!も、申し訳ございません…』
『たかが一関主の分際で!!俺は州牧の息子だぞ!!貴様のせいで!!貴様のせいで!!』
『や、やめ』

『さっさと出て行け!!』
『ッ!?』
『…っ!!』

割り込もうとする僕をより一層声を張り上げて父さんが叱る。

僕は部屋を飛び出した。


だが、それでも父さんが心配で部屋の外で耳をすませる。


ふ、ふざけんな!!
ドカッ


先程の父さんの声にまたも驚いてしまった事への八つ当たりと言わんばかりに声を張り上げる。

その怒声と殴る音が部屋の外にまで篭った音として漏れてくる。

ドスッ
ドゴッ
バスッ
申し訳ございません!!
うるさい!!
ドカッ
バキッ


『…ッ…ッ!!』


何度も繰り返される父さんの謝る声と殴られる音に涙が後から後から滝の様に流れ出てくる。

声を殺してはいるがもう我慢の限界だ。


僕は泣きながらその場を後にした。

なんて、無力なんだ。

作品名:烈戦記 作家名:語部館