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Grass Street1990 MOTHERS 完結

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 高木は、ほんの少し口の端を曲げて、渡辺の表情を見ていた。
 「平田時江は、こう言いました。『あたしの大事な人がされたように、青山の、頭を撃ってやった』と。」
 俺は、銃をもてあそびながら、高木の方を向いた。
 「あたしの大事な人、です。平田時江は、あなたの亡くなった夫に対してこう言ったんです。
 あなたたちは、いったい何をしていたんですか?」
 高木は、やはり表情も変えない。

 「誰が?」
 渡辺は、身を乗り出して俺に聞いた。
 「誰が、撃たれたって?」
 俺は、じっくりと時間を取って答えた。
 「……青山。」
 渡辺はしばらく天井をみつめてから、高木に顔を向けた。
 「落ち着きなさい。」
 高木が急いで言った。
 「心配ないって、あぶなくないって言ったのに……どうして……」
 渡辺は手で顔をおおって立ち上がった。
 「どこへ行く?」
 渡辺は、紅潮した顔を俺に向けて言った。
 「……琥珀……みっちゃんに……それに……」
 そして怒りに満ちた目を高木に向けた。
 「……この人の近くには、いたくない。」
 その場で右の方に身体を向けた渡辺を、俺は肩に手を置いて止めた。
 「もう救急車も、警察も来てる。だから、待て。あっちへ行く前に、ここでのカタをつけておけ。」
 妙な気分だ。俺は、渡辺の肩に触れたのが、初めてではないような気がした……

 ……いや、初めてのはず……

 ……! ……

 俺は混乱した。そんなことがあるのか?
 誰に、怒りの目を向ければいいのか……
 誰が、渡辺と青山を引き込んだのか……

 ……けれど……それなら、逆だ……

 さっき、PSで平田芳美が言った。

 ……『青山は、私に似てる』……

 大工が、琥珀の外で川本に会った時に言った。
 ……『かわいい子やないですか』……

 最初にズボ、大工、俺の3人で西柳ヶ瀬に来た時、あいつはこう言った。
 ……『僕は渡辺さんがいいなあ』……

 同じくらいの長さに、髪を切った……

 ……渡辺は、川本良美に似ている……


38

 「こんばんは。」

 実直そうな声がして、リーダー、ズボ、おっしょはんが入ってきた。この順番で、表情に緊張の度合いが強い。もちろん、ズボとおっしょはんの間にははかり知れないくらいの隔たりがあるのだが。
 渡辺はしばらくその3人を見て、高木からできるだけ離れたソファの端に座った。
 「大工は琥珀に様子を見に行ってもらったよ。」
 先程の2度の失敗を生かし、リーダーは今度は最初に声を出すことに成功した。この成功によって、彼はまた調子に乗れるかもしれない。

 「一つ言っておきます。」
 高木は、俺だけに目をやっていた。
 「あなた達が、どういうつもりでいるのかは知りませんが、これは、あなた達には直接関係のないことです。いいですか、全く関係ないのです。そんな部外者に教えることは何もありませんし、今まで私達が10何年も苦しんできたことを、今さら部外者のあなた達などにかきまわされたくはありません。帰ってください。」
 「ここから出ていけと言われれば仕方ないですけどね、」
 俺はリ-ダ-に心底同情しながら言った。やっと調子が戻ってきたら追い出されるなんて、今日の彼は全くツイていない。永田の家でツキを全て使い尽くしたのだろう。
 「でも身勝手なもんですね、利用できる部外者ならいいんですから。」
 「そうよ、」
 渡辺がまた立ち上がった。
 「みっちゃんは、この人にそそのかされて、殺されて……私も……」

 俺は、非常に冷淡に、渡辺を見上げて言った。
 「お前なんかに言う資格はない。黙ってろ、カス。」
 渡辺は怯えた目で俺を見た。
 「お前は自分が被害者だとでも思ってるのか?」
 俺は手でも上げそうな勢いで続けた。文部省の言う通り、体罰はいけない。以前はしていたはずの県教育委員会の偉い方々も校長も言っている。だが、こいつにはそんな理屈を無視したくなる。
 人間は、基本的には凶暴な生き物だろうか。
 ……そうじゃない。生き物は凶暴が普通なのだ。さっきからの平田だ、そして今の俺だ。

 「ふざけるな。だいたいお前はなんでここにいるのか考えてみろ。青山だけやない、何人死んだり、傷ついたりしたと思う、それもなんでか考えろ。わかるやろう。
 ……お前が、いいか? お前が、協力したからや。」
 「私は知らなかったのよ。」
 「アホかお前は。」
 ホントに殴りたくなった。宿題を忘れた生徒が時々こう言うことがある。掃除をサボッた生徒も。
宿題や掃除なら構わない。だが、
 「知らないことが、知ろうともしないことが罪なんやろうが。だいたい、何のために髪を切った?そこからおかしいと思わんのか?」

 渡辺は唇を噛むと、高木と俺を交互に睨んだ。
 そして、立ち上がると泣きだしそうな顔でジ-ザスを出ていった。 
  ズボがすかさず後について出ていった。
 この辺が見事だ。

 「うまくやったわね。」
 高木が、薄笑いを浮かべながら言った。こいつもズボの女癖を知っているのだろうか。
 「これで、私のいないところであの子から話が聞けるのね。」
 なんだ、そっちか。

 俺はそれには答えず、できる限り真剣に、高木の目をまっすぐに見て言った。
 「あなたは、うまくやったと思っていますか?」
 「………」
 「あなたが、今日までしたことですよ。」
 高木は、突然表情が変わった。
 「……そんなわけないでしょ……」
 俺は一つ息を大きく吸ってから尋ねた。
 「……復讐、ですか?」
 「……」
 「誰に……いえ、いいです。そんな質問は、たとえあなたにでも失礼ですね。」
 高木は、俺を無視して優しい目で川本に言った。
 「良美ちゃん、おばさんを、許してはもらえないと思うけど……」

 川本は下を向いたまま小さく首を振った。

 よし、決めた。ここまでだ。



39

 「じゃあ、帰ろう。」
 俺は、自分でも驚くほどあっさりと言った。

 川本はしばらく俺を見てから、小さくうなずいて立ち上がった。
 高木は何か言いたげに腰を浮かしたが、俺は彼女の反応を全く無視した。 
 別にさっきの仕返しではない。
 もう、川本にはここにいてもらいたくないだけである。
 そして俺は無言で、不運のリ-ダ-と、何も派手なことが無くてつまらなそうなおっしょはんに先導され、その後ろで川本を少し押すようにしながらドアに進んだ。

 「この子、少しだけ、頼みます。」
 3人が外に出てから、俺は1人、ドアの内側でリ-ダ-達にそう言うと、彼等が振り返る前にすばやくドアを閉め、内側からそれにもたれかかった。

 そして、金色の鍵をひねった。

 高木は予想通り、俺をじっと睨んでいた。
 「一体なんなんです、あなた達は、」
 「僕もね、それを、かなり腹立たしい思いで考えてますよ。」
 「え?」
 「あなたの言った通りですよ。」
 俺は、高木に少し近づいた。
 「あまりにも無関係の奴等が、あまりにも無責任に、それもたった数日間、回りを嗅ぎ回って、あなた達3つの家庭とそれぞれの関係が崩壊していくのを、ただあたふたと眺めていただけです。
作品名:Grass Street1990 MOTHERS 完結 作家名:MINO