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Da.sh Ⅱ

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新宿界隈にて


 新宿歌舞伎町。
 学生の時にバイトをしていた街である。およそ20年前のことだが、知った街であるという安心感から、舞い戻って来た。

 オレは理工学部修士課程を終えると、三ツ星製作所に入り開発部に籍を置きながら、ユーザー企業の工場ラインを設計・稼働させる、システムエンジニアとして働いていた。自社工場は茨城県にあり、先端産業といわれるIT関連の部品製造にかけては、世界のトップクラスに位置している。
 だが、韓国の安価な労働力に押されて、会社は次第に苦境に陥っていくこととなった。
 工場は、インドネシアからの研修生を受け入れ始めた。研修生とは名ばかりの、賃金の安い労働者である。実質は、最低賃金よりも安い。そしてそれによって、会社は推奨金を受け取ることが出来た。
 ん? 違った。意味をなしていない官僚機構が、仲介料などを稼ぎ利権をむさぼっているんだった。

 その後、正社員を削減して期間従業員が採用されることとなり、同時に労働者派遣法が緩和され、製造業にも短期派遣が認められるようになったのは10年前、オレが30歳の時である。
 自主退職に応募すれば、退職金が給料の6カ月分加算されるという条件に、手を上げた。自主退職は職種が限定されておらず、工場作業員以外からの応募も歓迎されていたのである。オレは増額された退職金で、自分の事業所を持ちたいという野望のために、早々に応募したのだ。

 無論、妻は反対した。
「あなたは経営者の器じゃないわよ」
 好美はくどいほどに言っていたが、オレは自分の信念を押し通した。明日香は、5歳になっていた。

 職場結婚をした好美は、オレの資質を見抜いていたに違いない。
 妻の言う通り、世間は甘くなかった。
 社宅を出て賃貸マンションに入り、三ツ星製作所や今までの顧客から仕事を斡旋してもらうことで、かろうじて経営は成り立っていた。
 仕事は、CAD(コンピューターによる設計)によって図面を作成することである。工場ラインの雛型を作って、クライアントにプレゼンすることもあった。つまりは、三ツ星でしていた仕事の延長でもある。
作品名:Da.sh Ⅱ 作家名:健忘真実