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19歳だった貴女への答辞

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万物は流転し、変化しないものはない。
我々も、時という名の太い鎖につながれて、老いてゆく旅路を進むように強いられている。
これは避けられない現実。

我々の真祖は、醜いまま永遠に生きるより、一瞬の光を発して美しく散る事を遺伝子に書き遺した。

我々が発する光を、永遠に捉えておくことは出来ない。
しかし、記憶することはできる。
さらに写真という魔術を使うことで、記憶を記録として強化し、我々はほんの少しだけ時に抗う事ができるようになる。

【確かに我々はそこに居た】

その事を証明し記録し、不完全ながらも心象によって時を超える力を付与するそれを、我々は写真と呼ぶ。

愛するものをいつまでも残したい、永遠にしたいという願いは、ヴィクター・フランケンシュタインの例を挙げるまでもなく人類普遍のものだ。

永遠を手にすることが許されない私達の、切なく、哀しい願いだ。
それにそっと寄り添う為の魔法がある。
暗箱と特殊な硝子と幾許かの化学物質又は電子物質を用いて使役される其れは、シキガミとして形を成し、我々を慰める。

この世界には、僅かながら本物の魔法が存在する。
写真はその中の貴重なひとかけらなのだ。
私は、それを鍛え、時代を超えて普遍となり得る一枚を生み出したいと願うちっぽけな人間だ。
写真によって、永遠に近付きたいと願う、灰色の錬金術師なのだ。

時間は時を経るたびに加速していく。
時間の歯車の性質に気づいた頃にはもう遅い。

年老いた蛇のように、時間は自らの皮を脱ぎ捨てて、常に新しくなってゆく。
諸行無常を意味する名を持ったその蛇が、また我々をひと飲みにする前に。

私はこの事を書き記して貴女への答辞としよう。
作品名:19歳だった貴女への答辞 作家名:机零四