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架空植物園

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目指した場所は結婚式場としても有名なホテルで、庭を一般開放している所だった。オレが場違いとも思えるこんな場所に入ってきたのは、二年前にほんの短い期間付き合った歳上の女性にサヨナラを言われた日だった。まだ恋愛初心者だったオレは未練がましく、その女性も後を追い、ここの庭に入り込んだのだった。暮れかかった庭にはホタルだと思う光が乱舞し、その幻想的な美しさにしばらくぼーっとして、次第に自分の未熟さをさとり、外に出たのだった。

そのあと庭に咲く花がホタルモドキという植物で、ホタルそっくりの花を付ける蘭の一種であることを知った。別名蛍呼び草。本物の蛍を呼び寄せ花粉授受の媒介をさせるということだ。

オレが二年前のことを思い出している傍を麗子も無言で歩いている。これから入る所がホテルだと言うことが分かると、麗子の表情が変わるのが分かった。中に入って少し歩いただけで、あの幻想的な光景に逢える。オレも早く見たかった。

少し急ぎ足になって高台に立った。しかし、思い出にある光景とは程遠い眺めだった。オレはあたりを見まわし、場所は間違いでは無かったことを確認する。薄暗い庭園に少し小さな灯りが明滅しているだけだった。
「え、ここ?」
あきらかに落胆したように麗子言う。
「あれえ、前に見た時はもっと幻想的で綺麗だったのになあ」

オレはまだ諦めきれないで、寂しい風景を眺めていた。
「わたし、もう帰るわ」
麗子が去って行く後ろ姿は、追いかけて来ないでと言っているように感じた。
オレの足は庭園の木の一部になってしまったかのように動かない。こうなることは大分前から分かっていたような気もしていた。

次第に庭の灯りが色と動きを増し、幻想的に感じて来た。涙だ。涙目で見ると、幻想的に見えるのだった。オレは情けなさと可笑しい気持ちの混じった気持ちで、この花に別名を与えた。

失恋草。





作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川