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(続)湯西川にて 1~5

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(続)湯西川にて (2)館山総合病院

 「房総だと言うから楽しみにしてやってくれば、
 ここはまだ、内房総じゃないの。
 外房の銚子に居るはずのあなたが、なんで館山の病院なんかに居るのさ」
 
 浴衣姿で突然現れた清子が、開口一番、俊彦の病室で
不平などを口にしています。
俊彦が入院をしている館山総合病院の3階の病室からは、内房の青い海が
初夏の日差しの下で、キラキラと輝き続けています。


 「いろいろと訳ありで、ね。
 それにしても、あまりにも突然すぎる君の登場だ。
 なんで俺がここに入院していることが、君に解ったんだろう。
 不思議なことも有るもんだ」


 あまりにも綺麗に片付いている病室内のテーブル周りや、
小物類の様子などに、清子が不審そうな眼を、片っぱしから
光らせていきます。
やがて、アイロンがよく利いているうえに丁寧にたたまれている着替え用の
洋服に、清子の目線が、ぴたりと停まります。

 「・・・・ふうん。やっぱり、女には不自由などをしていないようですね。
 明日、退院だと聞いたから不自由すると可哀そうだと思って、
 わざわざ湯西川から駆けつけてきたと言うのに、私は、
 ここにいる必要がないようです。
 気の利いた女が居ると言う気配がこの部屋には、
 さっきから濃厚に漂っているもの・・・・
 このまま房総の観光を一人でして、もう、さっさと帰ろうかしら」


 「おいおい。人の事情も聞かないうちから、
 そうそう結論だけを先走るなよ。
 それよりも俺たちは、4年ぶりになる嬉しい再会だ。
 手を握るとか、熱いくちづけをするとか、
 もと恋人同士らしく、そんな挨拶が有っても良いだろう」


 「おあいにくさま。
 少しくらいなら、私にもその気はあったけれど、
 たった今、ここに女の気配を見つけた瞬間から、もうすっかりと
 冷めてしまいました」

 「ということは、
 4年間は俺の事を思って居てくれたと言う意味にも聞こえる。
 嬉しいね。遠いところをはるばるとありがとう。
 退院はできても、まだ、当分の間は松葉杖の生活だろう。
 君が来てくれたことで俺には鬼に金棒だ。助かる」

 「一週間しか居ないわよ。
 売れっ子の芸者は、今でも極めて忙しいんだから・・・・
 え?、誰も居ないの・・・・本当に?
 あんたの身の回りを世話してくれる人は・・・・」

 「いまだに一人だよ。
 そんな便利な人が居れば、とっくの昔にもう退院をしているさ。
 両足の複雑骨折で、全治がなんと3ヶ月だ。
 毎日毎日、ここから同じ海の景色を見続けてきたんだ。
 もういい加減に、飽き飽きとしたころへ、
 ようやく美人の君が介抱に来てくれた」

 「身動きが出来なくなると人は口が上手くなると言うけど、
 まさにその通りみたいだわ。
 でも、純情可憐な年頃はすっかり過ぎたし、
 この歳になれば、世渡りもすこしは上手になるというもんだ。
 私だって、もうまもなく花柳界で10年選手になります。
 いつの間にかですが・・・・
 お化粧も、殿方の扱いなども昔から見れば、すっかり上手になりました。
 ついでですが、赤ちゃんのお世話の仕方なども、
 とても上手になりました」

 「え?赤ちゃんの世話?・・・・」


 「あら、不思議な顔をすることは無いでしょう。
 もう私だって、すっかりと適齢期です。
 そういう関係の殿方が居れば、一人や二人の赤ちゃん産まれても、
 当たり前の話です。
 温泉街や花街で働く女たちは、共同で助け合って子育てなどもいたします。
 そう言う一般論などを口にしただけのお話です。
 なぜにあなたは、それほどまでに、びっくりした顔をしているの。
 なにか、こころに思い当たる事でもあるのですか?
 あなたには」

 「あ。いや別に、ただ、それも君には有りうる話だと思って・・・・つい」

 (ふうん・・・・ここでノ俊彦は、いまだに一人身のままなんだ・・・)
くるりと背中を向けた清子が切れ長の目を、キラキラと輝き続けている館山湾に向けていきます。

 (4年ぶりに、この人と過ごせる一週間がようやく始まった。
 それが吉と出るのか、凶と出るのか、先の事はまったく誰にも解らない。
 それでも、私の胸はこうして嬉しさのあまり、やっぱり、
 トキメキをしはじめてきた。
 響と二人で生きて行こうと決めた瞬間から、私は女を
 封印をしたなずなのに、
 いやだわ。どこかで違う私が、いつのまにか、
 目を覚ましたみたい・・・・)


(3)へつづく