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「みゃぁ～」
その声は、決まって餌の時間になると聞こえてくる。

　猫というのは、どうにもわからない。気まぐれで、すぐどっかに行ってしまうくせに、飯の時間になると、決まって、主人に擦り寄って、飯をねだるのだ。

「みゃぁ！みゃぁー」
「はいはい、わかってますって」

　猫の名前はミケという。俺がこのアパートに引っ越してきて、初めて飼った猫だ。本当はペットを飼うことは許されてはいないが、隣の住人も犬を飼っているので、問題ないはずだ。もし、ばれた時は、隣の住人も、一緒にちくってやろうと思う。

「みゃぁ～」
ミケは食事を終えると、『ごちそう様』と挨拶をするように、一声鳴いた。そして、いつものように、玄関へと足取りを運んだ。

　そこで俺は、ミケに言ってやった。
「俺もお前みたいに成りたいよ」
ミケは、そんな主人の声など聞く耳を持たず、フリフリとした尻尾で『行って来ます』と言うようにドアの隙間から外の世界へと飛び出した。

　そして、飯の時刻になると、また、ミケは俺にいつものように擦り寄ってくる。
「みゃあ！みゃああ！みゃ～」
その声と猫の愛らしい顔を見るのが、俺の幸せだ。

　春が終わり、夏が過ぎ、秋の寒さが終わりを告げた頃、
ミケは居なくなってしまった。
　毎日、俺は皿の上に餌を置いて、餌をただ呆然と眺めた。

　冬が終わり、春が来て、夏の暑さを感じ無くなった頃、俺は皿の上に餌を置くのをやめた。『みゃぁ～』という声はもう聞こえない。

　そして、アパートの近くにある山に、墓を立ててやった。他人が見たら、ただの石の集まりにしかみえないが、俺には、ミケの魂が、石の下に眠っていると信じている。そして、夕日が沈むのを眺めていた。