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D.o.A. ep.44~57

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――――追われている。
熱気と疲労が体をさいなむ。
丈の長い草をかきわけながら、ぬかるむ地面を蹴るのもそろそろおしまいにしたい。

「はあっ、…ッは…、これは…中年の肉体には、堪えるなぁー…」

歳の差が出たか、アントニオ船長が弱音を吐き出した。
髭があるためだろうか、若干息苦しそうというか、暑苦しそうに見える。
「…いっつも、豪奢な椅子で、踏ん反りかえっとるから!…イザっちゅー時、真っ先にへばるん、でしょ!」
それよりは若干余力のありそうなナジカ青年が、顔を赤くして減らず口をたたいた。


やがて草むらを抜けると、比較的傾斜が激しくなる。
だが、道としては、先ほどまでとは雲泥の差だ。速度を上げることができる。
せめて開けた場所に出るまでは、足を止めるわけにはいかない。

「…ん?」

ライルは、不意に、あることに気づいた。その時、前方の海賊団員が声を上げる。
「船長!あそこなら戦えます!」
広さ、障害物、傾斜は十分戦いの場足りうる。アントニオ船長はにっと笑ってうなずいた。

「戦闘員、戦闘準備!!」
「合点!」

各々、自分の得物を構え、追跡者の正体を、はじめてその目でしっかり見定めた。
「ふっ――――!」
跳びかかってきた勢いを利用して、胴からばっさり斬りすてる。
棍棒で叩き伏せ、ナイフで切り裂く。
それぞれが、確かに手応えを得ていた。
ゆえに、彼らの周囲には、その何者かの遺骸が散乱しているはずだった。

「………!」

―――幾体もの、半透明の猛獣。
それが彼らが今、交戦している相手、すなわち追跡者の正体。
それは、幾度切り裂いても叩き伏せても、再び形を取り戻して現れる。
彼らは次第に、追いつめられてゆく。

「…ッ、何だ、こいつら…!」
「幻?」
「イヤ、手ごたえはたしかにありますから、…おそらく、傀儡やと思います」
「くぐつ…?なに、それ」
ナジカ青年が放った耳慣れない単語に、ライルは意味を尋ねる。
「身代わりを作る魔術や。やけど、こんな数をここまで素早く動かすのは…相当の使い手やと」
息を切らしながら、悔しげに半透明の獣たちを睨む。
「……誰が、こんなマネを」

「…わかりきった話やろ」

アントニオ船長が、抜き身の刃を油断なく敵へ向けて、鼻で笑った。

「どうやら、あいつはただのケダモノやのうて、魔術使いっちゅうことや」

確かに、ただの獣でないことは、人語を操ったときから―――否、あの黄金に輝かんばかりの巨躯を見た時から、わかっていた。
だが、魔物だとしても、魔術など使えるのはオークなどの人型くらいなもので、それとて単純な術しか使うことはできない。
レオンハート。魔術を使い、人語をあやつる、ライルの命を狙う、黄金のたてがみの猛獣。
あれはいったいどこから来た、何者だというのだろう。

「このままやとジリ貧ですわ。――――船長、提案があるんですけど」
「…言うてみい」
「ここは俺らに任して、少人数でお嬢を助けに行ったらどないでしょう」

ナジカの提案に、他の海賊たちも同じ考えであったようで、かすかに首肯してアントニオ船長の決定をうながす。
彼は、部下たちを見つめ、心苦しそうに瞳をすがめた。
ここで別れたら、二度と見れない顔があるかも知れぬと、奥歯を噛み締める。
けれど、それもわずかな時間だった。

「頼むで。……ネイアは、かならず助ける」
「ほな、それを励みに気張らしてもらいますわ」
「せんちょ!お嬢からの労いのちゅーくらい許してくださいよ!」
「………ぬかせ!」

ククッと笑いをこぼし、アントニオ船長は背を向けた。
そして、ライルの腕を捕まえて、他3、4人の肩を叩くと、彼らと共に駆け出す。

「…え?! お、俺はここで…」
「アホ言うな、あんさんおらんと、またあいつに逃げられるやろが!」
「けど…」
「あんまり見くびると怒るで、あいつらは百戦錬磨、俺の自慢の部下や。みんなちゃんと生き延びられる」
最後のほうは自分に言い聞かせるようだった。
その信頼は、ライルがケチをつけていいようなものではない。
おそらく、自分はこの先、レオンハートと闘うことになるだろう。
術者を倒すことができれば、術は消える。
彼らの安否は、自分にもかかっているのだ。

「そういや、あんさん、さっき何や、気になることでもあったか?」
「え?」
「ん?って、言うてたやろ。気になってな」

「チラッと見回しただけだから、多分、だけど…。ジャックと、ティル…俺の仲間の姿がなくて」

「………」
あきれたように、彼は口を開けた。
「蛇に絡まれて置いてけぼりになったのかも…」
「…シャーないやっちゃなアイツ…。さっさとカタつけて探してやらんとなぁ…」

それにしてもティルは一体どうしたというのか。
彼ほどの男が、ついて行きそびれるとは思えない。


――――それからは、相変わらず薄暗い森が続いていたが、傀儡が追ってくることはなかった。


作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har