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D.o.A. ep.44~57

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「…無人、島…」

陽気なバンダナ男、もといジャック=ルドもまた、ライルにさかのぼること1ヶ月前、ここに流されてきたという。
嵐の夜に船から誤って落ち、気付けば、ライルと同じ砂浜に横たわっていたらしい。
沿岸を歩いてみると、半日といくらかほどで一周できるような小さい島で、高い木に登って眺めても近海には何もない、孤島だった。
不幸中の幸いといえば、食料と飲料水だけは豊富にあったことだろう。
しかし人っ子一人いない無人の地であることは、この一ヶ月の探索で既に確認済みだ、とジャックは、草むらをかき分けつつ足を進め語る。
「………むじんとう…」
さっきとは別の意味で、ライルは眩暈を覚える。
飛ばされた先にはリノンもティルもおらず、見知らぬ男と二人きりで、しかも絶海の孤島ときた。
仮に、目指すレニシアからどんなに遠くても、有人の港町があれば、何とかレニシアまでいく手立てはあったろう。
けれどこんな状況では、偶然通りかかった船が、たまたまこちらに気付いて、更には親切に乗せてくれる、という幸運が重なる、限りなく少ない可能性に期待するほか、この無人島から脱出するすべがないのである。もはや、お先真っ暗である。

「イヤー、でもキミも災難やったね!やっぱ船から振り落とされちゃったりしたん?ん?ん?」
希望にとどめを刺されそうになっているライルと違い、ジャックの方は不運仲間が増えたせいか、いかにも嬉しげであった。
足取りも軽く隣を歩きながら、にこにこと親愛を向けてくる。尻尾があればぶんぶんと振っているのだろう。
悪意がないであろうことはわかっているが、どうにも眉間がぴくぴく震える。殴りたい。
「ま、命があっただけめっけモンやし、そう落ち込むなや。
ここ食うモンだけはぎょーさんあるし、最悪一生過ごすことになっても、飢え死にはまずないって!」

―――最悪。一生。
最も聞きたくない単語が耳に入り、ライルは血の気がざあっと引いた。
そんな彼の絶望など露知らず、ジャックは暢気に言いつのる。
「助け毎日待っててんけど、船なんか影も見えたことないし、覚悟してたんよ。
でも流石に独り寂しいなーって所に、生きとるキミが来てくれてホンマよかった!ま、これから末永く仲良う暮らしましょ。よろしゅー」
「俺はこんなトコで人生終える気は毛頭ないッ!」
反射的に怒鳴り返し、目をくわっと見開く。
1ヶ月も先に流れ着いているためか、既に永住の覚悟を固め、さらにライルもそれに巻き込む気らしい。
ジャックはやにわに気を逆立てたライルを落ち着かせるように、肩をぽんぽんとたたきはじめる。
「や、でもな、考えてみ、どんだけ嫌がっても、俺らこっから出られんやん」
「い、いっそのこと泳いで有人の陸地までたどり着いてやる!」
「えー、そりゃ無茶やろー」
むずがる幼児をなだめる顔である。こいつ年上か、と思った。
「とにかく俺は、なんとしてもあいつら見つけ出して、こんなトコからおさらばしてやるぞ、絶対にだッ!」

…ぐーぎゅるるる。
そして決意表明と共に拳を握りかためた直後、あまりにも間の抜けた音がし、頭の中が真っ白になった。

「……」
「…ま、まあ、何事を為すにもまず腹ごしらえせんとな、メシ食おうや、うん、そうしよ!」
羞恥のあまり沈黙してうなだれてしまった彼を慰めつつ、ジャックが提案する。太陽を見上げて、よし、と手を打った。
「ちょうど昼飯時やな」
「…ところで、どこ向かってんの」
「俺の隠れ家」
草が長く生い茂ってはいるが、注意すると幾度も何かが通ったような跡が見てとれた。
ライルは胸元を広げて仰ぎつつ、周囲を見回す。
見たことのない植物、やけに色あざやかな蛇や鳥、虫。熱気の中、生命の気配が濃厚に満ちている。
あらためて、ここが、まったくの異郷なのだと思い知らされる。
それでも、きっとこの島のどこかに、二人ともいるはずだ、と自らを元気づけて、ジャックの背を追う。


作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har