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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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『第二次世界大戦後・日本』


 終戦時『731部隊』の責任者である石井四郎(陸軍軍医中将)は、実験資料を日本各地に分散し隠し持っていたと言われている。
 この部隊は満州にて感染症予防や衛生的な水を戦地に送るという任務の他に、生物兵器の研究や人体実験などを繰り返していたという証言がある。
 石井はGHQによる尋問に対し、「資料は全て紛失した」と答えた。だが戦後になって出てきた証言や情報によると、731部隊の幹部たちは人体実験の資料をアメリカとの取り引きの材料に使ったらしいのだ。戦犯免責と引き換えに自由を得た石井ら幹部たちは、東京裁判でも結局裁かれなかった。そして戦後の医学界の中枢に深々と潜り込んでいったのである。

 洋子は731部隊の幹部『鬼頭大二郎』の妾(めかけ)だった。妻とは子供が出来なかったが、芸者をしていた洋子に産ませた小次郎は頭が非常に良く、特に語学に優れ周囲の大人を驚かせた。
 父親の大二郎も英語、中国語、ドイツ語に長け、満州ではその語学力を高く買われ石井の信頼を最も得ていた一人である。
 大二郎の妻が戦後まもなく病死すると、彼は洋子を正式に妻に迎えた。
「この子には石井中将殿の意志を継いでもらわなければいかん」
 これは彼の口ぐせであった。小次郎が十二歳になると、父は蔵の隠し扉から大量の資料を出してきた。
「これは石井中将殿から預かった貴重な資料だ。おまえはこの資料の中身を全て頭に叩き込め。その後は跡形もなく燃やしてしまうんだぞ。それが終わったら横浜に住んでいる私の知り合いを訪ねるんだ。日本の医学界には、私に協力してくれる人がたくさんいる。おまえはその頭脳を武器に彼らの力を借り、アメリカへ飛べ。そしてアメリカの研究所で私たちの意志を継ぎ、これを完成させてくれ」
 驚くべきことに、小次郎はわずか一週間で膨大な研究資料をすべて暗記してしまった。
 そして協力者のもと、父の言葉どおりアメリカに渡り『ビッグミリオン』という会社を一代で立ち上げる。協力者の支援は変わる事なく脈々と子孫に受け継がれ、今や世界中にその根を広げていた。
 そう――鬼頭小次郎の頭の中に入っていた資料とは、『731部隊の歴史に隠された、最も威力があり、かつ最も静かなウイルスの育成法』であった。
 その後、鬼頭小次郎は偽名で『ビッグミリオン』の事業を拡大していく。その後結婚して、一人の男の子をもうける。自分と違いその男の子には普通の生活をして欲しかったのか、妻と共に日本で暮らす事を強要した。もちろんそのためには金を惜しまなかった。
 男の子は大人になり、『ビッグミリオン代表』である父の小次郎とは全く違う業界で、その力を借りずに会社を作り成功した。そして日本人の女性と結婚したが、やはり“子供を1人もうけた”後、会社は傾きやがて離婚してしまった。
 その子供が――『鬼頭紫苑』である。離婚後、母方に引き取られた彼の名字は『篠崎』であった。
 紫苑は子供の時に、芸能プロダクションを経営している父親に連れられ、数週間アメリカに旅行した。おじいさんにあたる鬼頭小次郎に初めて会ったが、紫苑はその時のことをほとんど覚えていない。
 ただ……おじいさんの優しい視線を受けながら、大きな白い部屋で“痛い注射をされた”事だけはかすかに覚えていた。
 この注射こそが人類最後の希望、オールシーズン対応の『万能ワクチン』であった。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま