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神の祝い 悪魔の呪い

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少年の美しさは、神すらも魅了した。

***

 少年を見初めた神は、彼を天界の宴に招いた。
 「美しき人よ。そなたに贈り物を授けよう。神による祝福だ」
 少年は煌びやかに包まれた神のプレゼントを開いた。中には「永遠の命」が入っていた。
 少年は興奮し、神に礼を言った。
 神はしばらくの間少年の喜びようを眺めていたが、やがて集まったほかの神々に宴の終わりを告げた。
 「お待ちください、神よ。吾輩からもその人間の若者に贈り物がしとうござります」
 その時、悪魔が前へ進み出た。
 「少年よ、受け取るのだ。吾輩からは呪いを贈ろう。この世のすべての絶望をこれにつめこんだぞ」
 少年は恐るおそる受け取ったが、おぞましい包み紙に身震いし開けることなく捨ててしまった。
 「気に入らぬか。まあ今は未だ、精々この世界を謳歌するがよい」
 そんな捨て台詞を残して悪魔は去った。

***

 神から貰った「永遠の命」を携えて少年はふたたび世界に舞い戻った。
 尽きることのない命をもってしても、この膨大な世界をのこらず見渡すのは容易でなかった。
 少年は長いながい時代と文明を乗り越えた。その中には、見たかったものがたくさんあり、見なければ良かったとおもうものもたくさんあった。
 そうやって世界を廻るうちに、見たことのないものは少なくなっていった。

***

 やがて時は過ぎ、もはや人間と同じような縮図で世界を認識するのが難しくなった。
 少年にとって出涸らしの世界はあまりに味気なく、かつてのような好奇心と情熱はすでに失われてしまっていることに気づいた時、少年は死にたくなった。
 だが少年は神に与えらた「永遠の命」によって死を克服していた。
 世界の全てをすでに知り尽くした彼は、「永遠の命」を打ち砕く存在がこの「世界」にはありえないこともわかっていた。
 少年は絶望しうなだれていたが、ふと古い記憶を思い出した。

***

 「そうだ、あれはいつだったろうか。私が今よりずっと若く、かろやかな心を持っていた時だ。神から祝いを授かったと同時に、たしか悪魔からもプレゼントを貰ったのだ。悪魔はその中に「絶望」を詰め込んだといっていた。あれならば、きっと神の祝福を覆す力があるに違いない!そうだ、悪魔の呪縛を探すのだ!」
 少年はこれまで何度も旅をしてきたが、正真正銘最後の旅にでた。

***

 あちこち探し回って世界を歩いた。
 自分が歩くことで大地がすり減り、世界が摩滅しまうのではないかと思うほどたくさん探し回った。
 それはまるで、迷子を探すような不確かな足取りであったが。
 否、迷子になったのは、他でもない自分自身であったが。

 ***

 そしてついにみつけた。
 そこにはかつて来たことがある気がするがよく覚えていない。そもそも少年にとって世界とはそういうものだ。訪れたことのない場所などひとつもなく、今となってはどこもかしこも同じように見えてしまう。
 少年にとっての世界は、もはや単なる「世界」としか認識できないモノだった。
 
***

 ようやくみつけた悪魔の贈り物はいまも相変わらずおぞましかった。
 きっとこの中には死が入っているだろう。
 悪魔が寄越した最悪の絶望が。
 だが今の自分にはそうではない。
 「絶望」こそが「希望」になった自分にとっては。
 生きながらに地獄に縛り付けられた自分を解き放ってくれる「希望」が。
 少年は震える手でそっと包みを開いた。

 ***

 悪魔のプレゼントの中には、「永遠の命」が入っていた。
 真新しく、まばゆいばかりの「永遠の命」であった。
 少年の理解は追いつかない。
 「何故これが『絶望』なのだ!?かつて受け取った神の贈り物とまったく一緒ではないか。神の祝いと悪魔の呪いが、なぜ同じものなのだ!悪魔よ、絶望を込めたのではなかったのか!!」
 少年は崩れ落ち、虚空に向かって叫んだ。
 「私の希望が……。唯一の希望が、失われてしまった」

***

 少年は、だれもいなくなった世界でただ絶望だけを感じていた。
 ほかには、もうなにもなかった。

 ただ、絶望だけが世界に残った。
作品名:神の祝い 悪魔の呪い 作家名:Syamu