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言の寺

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不発の念



私は まさぐっている
――自分の肉体の徒然を

この体のどこかに

「導火線があるはずだ」

爆発して果てたいのだ私は

満員電車の中で私は
運搬されゆくニトログリセリンの心境を
忠実に内包している存在

「満員電車を……mine電車に替えてやるのだ私」

*****

【mine】

1a私のもの

3b地雷; 水雷,機雷.

*****

電車が揺れるたびに
私の愉悦 ふつふつこみ上げる

「そんなに揺らしては、爆発してしまうのになぁ」

携帯電話を探る手つきで私
実のところ導火線を探している

「誰も気づいていはいない」

私の不穏当な動きを

「誰も気づいてはいないのだ」

――誰も

ヘッドホンに挟まれた茶髪の頭部も
360度を睨みつけているOL姉ちゃんも
朝帰りの主婦も
エア視姦に余年のない中学生男子も
腰椎負荷120%で直立しているご老人も
スカート丈の限界に挑戦している変態ギャルも
運転手も
キャリーバッグの中で息を潜めているチワワも
お弁当の中のミニトマトも
競馬場に向かう生活保護受給者も

「気づいてはいない」

――自分自身が爆弾であるということに

それがなんの比喩でもなくって
ただの現実であるということに

私の手
遂に導火線を見つける

そしてこう嘯くのです

「導火線を以って、どうかせんといかんのです。この現実を」

私は

数秒後に爆ぜるだろう

私の爆発は
他の乗客を誘爆させて
電車全体がまるで
もともとそういう兵器であったかのように
レールの流れに沿って
中心街目掛け特攻してゆくのだ



いう幻想を
つり革の下に揺らして私

開いたドアからたどたどと出てゆく

不発の念に
苛まれながら私

「いつか爆ぜるだろう」

駅員に意味ありげな笑みをぶつけて
改札を通り抜けた


作品名:言の寺 作家名:或虎