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Parasite Resort 第一章

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act09



 銀の橋――シュミハザの爪、その先端は、木の根のように無数に分岐して後方の闇の中に伸びている。ここには光があった。橋の向こうから漏れ来る光、きっと玲子がいるであろう橋の向こう側。躊躇によって3秒ほど足踏みした後、橋に橋を乗せ、玲子の体へと移動していく旦。橋といっても欄干があるわけでも舗装されて平坦なわけでも無い。つるりとした金属様の一本橋である。途中何度もずり落ちそうになった。その度に旦は、ざわつく背骨から伝達される悪寒に意識を遠のかせながら――この橋から、転げ落ちてしまったら俺は、一体どうなってしまうのだろうか?と、心胆を寒からしめる。しかし、旦は挫けない。玲子に会いたい一心で、銀の爪を渡る。今やなりふり構わず四つ這いである。

 シュミハザの爪は、進むほどに道幅を広くしていく――考えてみれば、爪の形状からして、当然の事だ。

(玲子……)

 一度目は、心に思った。

「玲子」

 二度目は、声に出した。

「玲子ーーー」

 三度目は、絶叫となった。

 銀の一本橋の終点が見えた。そこには、白い光の原っぱがあった。白一色の草花が、生える草原。旦が第一歩をそこに踏み入れた途端、声がした。

「クロ?……クロなの?」

「玲子?!」

 紛うこと無い玲子の声。

「どこだ?玲子」

「ダメ」

 無意識に2歩、3歩進んでいた旦は、玲子に静止され立ち止まる。

「こ……来ないで……それ以上は……」

 上ずった玲子の声、何やら苦しげに聞こえる。

「どうしたんだ?玲子」

 一陣の風が草原を吹き抜けた。すると辺の様相は一変した。

「何だ?ここは?」

 草原のあちこちから、白いモコモコとしたマシュマロのような塊が無数に湧き出てきた。

「玲子ーー」

「あ……あ……クロ……」

 白いマシュマロが旦の体を包み込んだ。そして、旦を橋の方まで押し出し始める。

「何だコレ?……クソッ……駄目だ……体を持っていかれる」

 それでも旦は、必死に食い下がる。何とかしてそこに留まろうと、モコモコの白い塊に手を掛け、力いっぱい掴んだ。すると。

「いやーーー……ダメ……掴まないで……」

「え?」

 思わず手を離す旦。

「玲子……どうした?」

 マシュマロの塊が更に押し寄せてきた。旦は、それに対抗すべく足を踏ん張り、体を前傾させる。旦の体は、白い塊の中に埋もれてしまった。

「ああ……クロ……ヤメテ……クロが入ってくる度に私……私の意識が……クロを感じて……」

「大丈夫か?玲子、今行くぞ」

 状況が把握出来ずに旦は、我武者羅に、白いモコモコに体を押し付け、掻き分けながら、奥へ奥へと進む。

「ダメ……擦れる……止めてお願いだから……はぁ……」

「……玲子?」

 旦は、ようやく、玲子の意識に何が起こっているのか……自分が玲子の意識の奥へ進むという行為が、玲子にどのような感覚を与えてしまっているのかを把握した。

「玲子……あの……ひょっとして……」

「おかしくなりそう……クロが奥へ来るたび……私の意識が溶けそうになるの……」

「玲子……」

 旦は自覚した――そうだ。ここは玲子の意識の中なんだ――今俺は、玲子の意識の中に、存在しているんだ。考えてみればそれは……体を交えるよりも深い結び付きなのでは無いだろうか?玲子の体の中に、旦の意識が入り込んでしまっている状態。それが今の状態。

「玲子……俺、どうしたらいい?」

 旦は戸惑う。そして初めて気づく――自分が全裸であることに……一体いつからなのか分からないが……そして何故か、眼鏡だけはかっちり顔面に残っている。

「動かないで……は……じっと……じっとしてて……」

 玲子の声に従い、旦は、制止した。奥へ進もうとする動きを止めた。そして、ただただ今いる箇所に突っ立っていようと試みた。しかし、旦の体を押し包む白い塊の群れが、ピクピクと脈動して、旦の体を後ろから小突いたり、前から押してきたり、下から上へ撫でるように刷り上げてきたり、段々とその動きを激しくし始めた。その動きにつれ、玲子の吐息……はぁはぁと苦しげな玲子の声、何かを必死に堪えようとしている玲子の……喘ぎが、鮮明に聞こえてくるようになった。

「駄目……クロ……ワタシ……ワ…タシ…もう限界かも……しれ……ない……」

 玲子の悩ましげな声が、マシュマロ肉の隙間から漏れ聞こえて来た。

 実の話、旦の方も限界であった。白いマシュマロは、仄かな温かみを宿していて、それが旦の全身を隈なく覆い尽くし、優しく緩まったかと思えば、突然圧を増して締めあげてきたりといった不規則な運動を繰り返して来る。逃れようもなく全身に圧力が加わって来る。剥き出しとなっている旦の男性自身にも、逃れよう無く圧力は加わってくる。いや、寧ろそこを狙って集中的に、マシュマロは圧を加え、締めあげるような動きを繰り返していた。玲子の嗚咽にも似た吐息が、マシュマロの動きに同調している。その吐息に釣られて、旦も息を荒げ始めていた。

「玲子……ちょっと、これ、なんとかしてくれないか……」

「ん……んん、クロ……ん」

 だんだんとマシュマロの動きがリズミカルになってきた。それにつれ、マシュマロの表面が、粘り気を持ち始めた。旦の肉体からマシュマロが一瞬剥がれると、透明な粘膜が、キラキラと糸を引いて見えた。甘い香りが辺に立ち込め、旦の鼻腔を潜り、体奥へ忍び込んでくる。その匂いの濃密さに、旦の意識が飛びそうになる。

「クロ……見つけた……そこにいたんだね……は……」

 玲子のイタズラっぽい声が聞こえてきた。

「玲子?…………………んぁ?!」

 思わず嬌声を挙げてしまった旦。旦の男性自身は、明らかに5本の指に似た感触によって、握りしめられていた。

「玲子ぉ……」

「あ……あ……これが旦の……だね……すごい」

「ちょっと止めてくれ」

 旦が懇願した途端、5本と思われた指の感触は無数になった。そして激しく前後に、左右に、上下に滑らかに動き始めた。その間も絶え間なく粘膜が溢れてきて、旦を……旦の男性を包み込んでいた。

「クロ……クロ……あ……クロ……ん……」

「ちょっと待て玲子……ヤバイ……」

 玲子の意識が、このマシュマロを動かしているのだろうか?それともこのマシュマロ自体が玲子の意識なのだろうか?旦は溶けそうになる意識の中で、それを考えた。いや、考えようとした。しかし、それは敢え無く中断させられた、かつて経験したことのない快感によって。
 
 快楽――アザゼルの意識が最初に入り込んできて同化(正確には寄生)してきた時の感覚――思わず夢の中で精を漏らしてしまったあの衝撃的な感覚――それよりも何倍も激しく甘く……そして美しい心地よさが、弾けるように下腹部に駆け巡る。しかし、果てることは出来なかった。

「ああ……ああ……玲子……止めてくれ……」

「ふふふ……クロ……クロ……ああ……私のクロ……クロが欲しい……クロのすべてが……」
作品名:Parasite Resort 第一章 作家名:或虎